新型コロナウイルス対策の持続化給付金等を派遣型風俗店(デリヘル)に給付しないことは職業差別だとして、店が国に損害賠償を求めていた訴訟の上告審判決が16日、最高裁第1小法廷(宮川美津子裁判長)で言い渡された。結果はデリヘルを対象外とすることが「合憲」の判断が下されたが、この判決にセックスワーカーを支援する関係者が怒っている。
コロナ禍で国は中小法人等の事業者に対して給付金を支給することにしたが、性風俗店は対象外としていた。これに関西のデリヘル店が憲法14条の法の下の平等や同22条の職業選択の自由などに反し、職業差別だとして国を訴えていた。
判決は裁判官5人中4人の多数意見。宮川美津子裁判長1人が違憲であると反対意見を付けた。判決では「公費を支出してまでその事業の継続を支えることは相当でないと判断し、給付対象から除外して区別することが不合理であるということはできない」と給付対象外とした国の判断を支持。職業差別ではなく「区別」だとした。
合憲との判決に怒っているのはセックスワーカーを支援する団体「SWASH」の要友紀子氏だ。この日の最高裁判決を傍聴していた。「判決文を聞きながら、憲法何条に違反しない理由に人権とか権利とか生存権にかかわる話が一切なくて、単に性道徳的、風紀的な話やこの仕事がどう見られるのかなどの個人的な価値判断に則っていて、こんなふざけた判決はないと思いました」と憤った。
判決ではデリヘルは「接客従業者の尊厳を害するおそれがあることを否定しがたいもの」であるから、給付金対象外もやむなしとしている。要氏は「その辺に転がっている風俗をディスる理由を判決に持ってきている。一般的に風俗ってこういうふうに差別されていますよみたいな、どんな差別があるかを判決で言われた感じ。最高裁は差別かどうか、憲法違反かどうかっていうのを検証しないといけないのに何を一体検証したのか。差別の用語を並べただけ。『尊厳のない仕事』だとか『風紀を乱す』だとか」と不満を訴えた。
今後の性風俗をめぐる法律や規制の議論にも、今回の判決が影響をおよぼすかもしれない。「判決を利用してくる人もいるでしょうね。『こういう判決理由だったのだから、(性風俗は)あってはならない職業だ』みたいにきっと言う人が出てくる。それで誰が困るのか、誰が困窮して追い詰められるのか」と、性風俗産業で働く人たちが余計につらい思いをするのではないかと指摘した。
一方、弁護団から前向きにとらえられているのが、宮川裁判長の反対意見だ。デリヘルを対象外とすることで店で働く女性が「あたかも社会的に見て劣位に置かれているという評価・印象を与え、あるいはそれらの固定化につながりかねない効果をもたらすおそれがあること」を考慮すべきだと指摘。判決で「尊厳を害する」とされたデリヘルの仕事のことも、宮川裁判長は「当人の尊厳を害するおそれがあるとまでは断じられない」とフォロー。デリヘルを対象外とすることは、法の下の平等を明記した憲法14条1項に違反するとした。
今後も似たような問題が発生した場合に、この反対意見が重要になってくるかもしれない。