《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言

新宿に拠点を構え、これまでに3000件以上の風俗トラブルを担当してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏のもとには、日々様々な相談が寄せられる。歌舞伎町のお膝元にある、紀伊國屋書店新宿本店の「新書部門(6月4週)」でランキング第1位を獲得した若林氏の著書『歌舞伎町弁護士』より、一部抜粋、再構成して紹介する。【前後編の前編】
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警察が誰かを逮捕した。だから、「逮捕された時点で悪人」だとするなら、裁判という仕組みはいらない。同様に、検察が起訴したからといって、それを根拠に「起訴された者が悪人である」とも断定できないだろう。
逮捕され、起訴された者が「本当に、その罪を犯しているのかどうか」を判断するのは、あくまで裁判だ。そして、その裁判ですらも、地方裁判所によるジャッジだけでは真実を見誤る可能性が否定できないため、高等裁判所、最高裁判所と複数回にわたって、裁判を受ける権利が保障されている。
暴力団の構成員だからといって、口を開けば毎回「恐喝する」わけではないし、過去に物を盗んだ前科がある人物が、その前科を理由に今日も「盗んだ」かどうかは決めつけられない。そういうことだ。
左手で吊り革をつかみ、右手には工具の入った鞄を持っていた
早朝のJR埼京線で乗客らによって取り押さえられ、新宿駅で警官に引き渡された若い男性がいた。ラッシュ時、ぎちぎちに人の詰まった車内で「痴漢」の疑いをかけられたのだ。1人の女性が「やめてください!」と大きな声を上げ、その声に反応した周囲の男性らが、彼女の後ろに立っていた若者を羽交い絞めにした。
私は当番弁護士(弁護士会から派遣されて無料で初回の接見を行う制度)として連絡を受けた。
21歳の内装職人だという彼は、坊主頭が少し伸びたぐらいの黒髪で、眉毛は太いまま少しもいじっていなかった。大きな、くりくりした眼。母子家庭で育ち、幼少期は父親の暴力に苦しめられていたという。
「痴漢なんてやっていません」
車内で羽交い絞めにされた時も、駅のホームで駅員たちに囲まれた時も、その後、到着した警察官たちに任意同行を求められた時も、彼は一貫して「否認」していた。
私が注目したのは、声を上げた女性が主張した犯行の態様だった。
被害者とされる女性は30歳前後のビジネスウーマン風だ。警察から被疑者とされた彼が聞いた話によると、女性は「スカートの上から、手でお尻をまさぐられた」と主張し、「掌や指の内側がお尻に触れていた」とも話しているようだ。
だが、彼は左手で吊り革をつかんでおり、右手は「工具の入った鞄の取っ手を握っていた」と言う。
警察の取調べ状況や、彼を取り押さえた乗客たちの証言から、彼が右手で大きな鞄を持っていたことはたしかなように思われた。彼が持っていた工具入りの鞄はかなり重く、地面に届くほど取っ手も長くなかったので、強くしっかりと握っていなければ下に落ちてしまう。
しかし、取調べを担当した警察官は、「最近は、鞄を持ったまま、その手の甲で触るケースも少なくない」と冷たい眼で言っていたようだ。それはそうかもしれないが、今回の事件がそれにあてはまるかどうかは、仔細に調べてみなければわからない。
(後編に続く)

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