参院選で初当選、AIエンジニア・安野貴博が仕掛ける「1%の革命」の正体とは? その根底にある民主主義へのまなざし

夏の参院選で、「チームみらい」の党首でAIエンジニアの安野貴博氏が初の議席を獲得した。結成からわずか3ヶ月足らずで、政党要件を満たす得票率2%を上回る勢いを見せた「チームみらい」。『 1%の革命 』が注目を集める安野貴博氏が、民主主義をめぐる根源的な思想を明かす。
(※本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)
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1%による、99%の人々のための革命
どんな分野においても、最初にチャレンジする1%の人々の不断の努力が、時代に即した新しい創造性を生み、現在と次世代が生きる場をつくってきました。1%による、99%の人々のための革命が至るところで起きてきたのです。
成功率は決して高くはありませんが、その挑戦には社会的にも歴史的にも大きな意味があるはずです。
ここでは、1%の革命と民主主義の未来についての包括的なビジョンを示したいと思います。
「1%の革命」(The 1% Revolution)は、2011年にニューヨークで起こった「ウォール街を占拠せよ」(Occupy Wall Street)運動における“We are the 99%”というスローガンを意識したものです。
全米がリーマンショックの不景気にあえぐなか、最も裕福な1%が合衆国の総資産の3分の1以上を所有しているという現実に対して、持たざる99%が声を上げたこのムーブメントは、世界中の社会運動に多大な影響を与えました。
その背景として、当時のアメリカには大幅な規制緩和と大企業優遇といった政策による中間層の崩壊という問題がありました。富裕層を優遇し、銀行と大企業の財政破綻に血税を注ぎ込むオバマ政権に対して、若者たちを中心に国民の怒りが爆発したのです。
「ウォール街を占拠せよ」運動の注目点
反格差を掲げ、行き過ぎた金融資本主義にNOを突きつけたこのOWSのムーブメントにおいて、ジェネラル・アッセンブリー(general assembly)形式の直接民主主義が採用されていたことに私は注目しています。
これは、特定のリーダーを置くこともなければ上意下達の組織構造をとることもなく、(2~3人の会議運営役を置きつつ)参加者全員が考え、発言し諸々の事項を決定してゆく方式でした。いかなる行動をとるのか、運動の戦略をどうするのか? 集った数千人の人々は、人民マイクと呼ばれる声のリレーによる伝達方式を用いてコンセンサス型で意思決定を行ったのです。
多くの非効率的な時間を費やしながらも意思疎通がはかられました。
それぞれの意志を示すために、ハンドサイン(ジェスチャー)も決められていました。親指と人差し指で三角形をつくる、といった具合にです。
そしてさまざまな役割を担う委員会(法的サポート、食物供給、公衆衛生、防衛、情宣、メディア、直接行動、会議運営、芸術文化、その他)で諸問題の解決にあたり、まさに市民自らによるボトムアップの自治が行われていました(ライターズ・フォー・ザ・99%『ウォール街を占拠せよ はじまりの物語』)。
OWSは単なる抗議運動ではなく、民主主義を市民の手に取り戻すための果敢な挑戦でもあったのです。
直接民主主義のパスはデジタルでつくれる
私は多種多様な意見をもつ人々が集う社会で意思決定を行うには、デジタル技術によって開かれたコミュニケーションの経路(パス)をつくることに鍵があると考えています。
OWS運動は大きな注目を集めましたが、特定の政治基盤をもたない多様な人々の集合体が、原始的な形での直接民主主義で物事を決めることの限界も示していたとも思います。反格差では一致していたものの、政策レベルでなにを要求するかがまとまらず、多くの参加者が離れていく結果となりました。
OWSが残した課題――多元的なコミュニティにおいて効果的に意思決定を行うメカニズムの設計――は、今のテクノロジーを使うことによって解決可能なのではないか、というのが私の仮説であり、ビジョンです。
現行の代議制民主主義は、市民が選択できることが少なすぎるという問題を抱えています。アメリカであれば共和党か民主党か、保守かリベラルかという2択、極論をいえば“1ビットの情報量”しかありません。日本では、この30 年間の大半において、自民党・公明党の連立政権だったために、政権与党の部会で物事が決まり、国民の意見を反映させて政策を練り上げるルートがほぼありませんでした。
このような政治の意思決定には、(1)スピード感の欠如、(2)長期目線の欠落、(3)リスクをとる大きな決断の回避(問題の先送り)、という3つの問題があります。民間のビジネスならこの3つの問題を解決できなければ自然淘汰を免れませんが、こと政治においてはこれらを補正しようとする力がはたらきにくいのが実情です。
では、どのようにして意思決定の仕組みをアップデートすればよいのでしょうか?
意思決定の3つのアンサンブルとは?
一つのアプローチは多様なデータを適切なバランスで参照できるようにすることだと思報」、「個人の無意識のままの情報」、「複数人で議論を経た熟議的な情報」の3つがあり、この3つの重ね合わせ(アンサンブル)から民意を推定することが重要です(図参照)。
まず「意識の情報」とは、一人ひとりの脳内で言語化がなされた情報のことです。SNSや各種メディア、パブリックコメント、投票結果などに「意識の情報」は表出しています。
「無意識の情報」とは景気指標や消費行動の統計など、集団の無意識が読み取れるデータです。将来的には成田悠輔の『22世紀の民主主義』で描かれたように心拍数や脳波のようなデータも入ってくるかもしれませんが、まだ現時点でそこまでの技術は確立していないので、本書ではスコープ外とします。
「熟議的な情報」は、実際に議論を進めていくなかで交わされる多様な視点や専門知のことです。地方議会や国会をはじめとして、党内、草の根で行われるさまざまな議論で表出される意見となります。
この3つの組み合わせで最適なポートフォリオを組んでいくのです。
もちろん、情報源(データソース)ごとにさまざまな偏りがあります。例えばSNS上での議論は当然SNSを使う人の意見しか聞けませんし、政治的意見を自らネットに投稿する人は大多数ではないでしょう。荒らしのような書き込みも多数あるはずです。ですが、ネット上で提起された論点が世の中に影響を与えてきた例は多数存在します。データサイエンスの分野でも、異なる情報源をうまく組み合わせることができれば予測精度が上がることが知られています。民主主義においても、使えるデータはバイアスを認識しながら、可能な限り参考にしてゆくべきだ、と考えています。
有効活用に際しては、現状2つの問題があると思います。せっかく使える情報がたくさんあるのに「意識の情報の反映のされ方が弱い」ことと、「熟議のプロセスが閉ざされていて参加が難しい」という点です。本来はもっと世論が汲み取られるべきイシューなのに民意がほとんど考慮されず、また、国会議員が専門家や市民も交えて熟議すべきなのに、プロセスがオープンではなく、事実上市民が熟議に参加するのが非常に困難になってしまっています。
“市民の声を反映する”すぐれた先行事例
この膠着状態を打破するには、AIの力で政治的なイシューをめぐるSNSの反応を可視化し、多人数での熟議が可能な言論空間をつくることが有効です。
そして革命の肝は、間接民主主義(代議制民主主義)で100%の意思決定がなされている現状に対して、まず1%の直接民主主義を導入することです。
私が都知事選においてGitHub 上に意見交換の場を立ち上げ、議論の結果をマニフェストに反映させていったように、あるいは台湾では「vTaiwan」というプラットフォームで市民が立法プロセスに直接参加しているように、市民の声が実効性をもった形でダイレクトに反映できる仕組みはつくれます。直接民主主義というパスを「0」から「1」にするのです。
市民が話し合って決められる予算枠をもうけ、直接参加で政策を練り上げる市民参加型予算を導入するのも有効です。議論のプロセスはすべて可視化し、政策イシューに関して、具体的にどう予算を使って何を実施するかを公開します。また、デジタルプラットフォームを用意し、市民がプレゼンテーションを行ったり、提案書を資料とともに公開したりすることができるようにします。
台湾のオープンソース・プラットフォーム「vTaiwan」には、専門的な知見をもった人々も多く参加し、そこで交わされる政策をめぐる議論をAIが分析して、多様な意見を整理しながら全体を概観できるマップをつくっています。こうしたプロセスでは少数の意見も拾い上げられやすく、多くの人が協働して議論を深めていくことができます。
また、過去事例など、実行の要件が十分に揃っている政策についてはAIが情報源となることも将来的には考えられるでしょう。データを集め、意思決定のプロセスをオープンにしながら、最適な意思決定のポートフォリオを模索していくことができるのです。
( その2へ続く )
〈 「“白か黒か”ではなく、カラフルなオプションを」《比例初当選》安野貴博が志す多元的な社会という未来 〉へ続く
(安野 貴博/ライフスタイル出版)

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