―[その判決に異議あり!]― でっち上げの不正輸出容疑で逮捕者を出した大川原化工機を巡る冤罪事件では、当時71歳の同社相談役の男性が、勾留中にがんを発症したにもかかわらず適切な治療を受けられないまま死亡。8月25日に、警視庁と検察の幹部が共に遺族に謝罪した。 “白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は「大川原化工機冤罪事件裁判の保釈請求却下」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。 ◆無実の71歳を死に追いやった司法の非情すぎる判断 生物兵器に転用可能な噴霧乾燥器を不正輸出したとして関係者3人が逮捕された大川原化工機を巡る冤罪事件。「経済安保」に熱心な安倍政権への忖度なのか、警察・検察によるデタラメな立件がなされ、後に厳しく批判されたのは記憶に新しい。 しかし、この事件にはもう一つ重大な問題がある。勾留中にがんの進行が見つかった被告人の検査・治療が適切な時期に行われず、そのまま死に至ってしまったことだ。 亡くなった同社相談役・相嶋静夫さんは71歳の高齢で不整脈などの既往症があった。令和2年3月11日に逮捕され、同年7月7日に警察の留置場から東京拘置所に移送された際、検診でヘモグロビン濃度が10・9g/dlと明らかな異常値を示していた。 同年8月28日になると激しい胃痛を訴え、強いめまいや視野が暗く狭くなる症状が現れた。貧血症状も出たため原因不明の腸内出血が疑われ、400ccの輸血を受けることになる。 そこで弁護人は同年9月29日、東京地裁に相嶋さんの保釈を請求した。刑事訴訟法90条では、裁判所は被告人が受ける健康上の不利益も考慮して保釈できるからだ。10月1日には胃の幽門部に大きな潰瘍が認められ、胃がん疑いと診断される。しかし同月2日、東京地裁令状部の本村理絵裁判官は相嶋さんの保釈請求を却下した。 ◆“命を救う方法”は保釈しかなかった 相嶋さんは同月7日、内視鏡検査後の病理検査の結果、進行性胃がんであることが判明した。その頃は一人で歩けないほど衰弱し、液体状の栄養剤しか摂取できず、体重も急激に減少。輸血量も1200ccに達していた。ところが東京拘置所は、相嶋さんの検査や治療をしようとしなかった。 こういう場合、被告人を拘置所外の病院で治療する「勾留執行停止」という制度がある。だが医療機関によっては勾留執行停止中の患者受け入れに難色を示すところもある。相嶋さんも8時間だけの勾留執行停止決定を得て病院を受診したが、案の定、検査・治療を拒否されてしまった。弁護人は勾留執行停止中の患者も受け入れる医療機関を懸命に探したが見つからなかった。