石破茂首相(自民党総裁)の退陣表明を受けた自民党総裁選挙が9月22日に告示された。10月4日の投開票で新総裁が選出される。
政策課題や連立相手をめぐる論戦が繰り広げられることになるが、衆参両院で少数与党に転落した中で、自民党の方針が実現する保証はない。自民党の政策や人材に対して、有権者は冷めた視線を向けている。「解党的出直し」ができないようだと、自民党は凋落の道をたどり、この総裁選は自民党政治の“終わりの始まり”となるだろう。
「『石破票』が誰に流れるか」が焦点に
立候補したのは、届け出順に小林鷹之元経済安全保障担当相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗元総務相、小泉進次郎農林水産相の5人。
衆参両院の国会議員295人と約91万人の党員票を295票分にドント配分する票の合計で争われる。1回目の投票で過半数を得る候補がいない場合は、上位2人が国会議員(295人)と都道府県連代表(47人)の投票で争う。
関係者の話をまとめると、告示時点の情勢は、党員に浸透している小泉、高市両氏が先行。閣僚経験豊富な林氏が国会議員への支持を広げて追い上げている。茂木、小林両氏は支持拡大に懸命だ。
5人とも1年前の総裁選に立候補し、石破氏に敗れている。その石破氏が集めたリベラル系の党員票や議員票がどの候補に流れるかが焦点となる。保守派の高市氏が、これまで明言してきた靖国神社参拝についてトーンダウンさせていることや、小泉氏が石破氏の持論である「防災庁新設」を重点政策に掲げたのも、「石破票」狙いだろう。
テレビやネットを通じて総裁選の討論やニュースが大々的に流され、自民党への注目度が増しているが、今の自民党が抱える本質的な問題を見失ってはいけない。
5月配信の記事(7月参院選は大きな試練に!「結党70年」を前に行き詰まる自民党、原因は”GPS”にあり)では、自民党が抱える問題点として「GPS」と指摘した。すなわち、裏金問題で露呈した党組織のガバナンス(G)の欠如、物価高や格差拡大に対処すべき政策=ポリシー(P)が時代遅れになっている、小泉純一郎氏から石破茂氏まで21世紀の総裁・首相7人のうち6人が世襲(S)という現象に見られる人材不足、である。
昨年の衆院選と今夏の参院選では、こうした自民党の抱える問題が有権者から批判を浴び、衆参両院で少数与党に転落したのである。
ところが、今回の総裁選では裏金事件の真相解明や再発防止策などに正面から取り組む姿勢は示されず、自民党のガバナンス問題は「喉元過ぎれば熱さ忘れる」という状況だ。世襲議員の増加が自民党の活力を弱めていることも、ほとんど議論されていない。
置き去りにされた「物価高」と「格差拡大」