政府の地震調査委員会は26日、南海トラフを震源とするマグニチュード(M)8~9級の巨大地震について、発生確率の算出法を見直し、「80%程度」としていた今後30年以内の発生確率(1月1日現在)を「60~90%程度以上」に改訂した。算出に用いてきた過去の巨大地震に関する古文書の記録に誤差があることを踏まえた見直しという。
南海トラフ地震のような海溝型地震は、ひずみが蓄積したプレートが跳ね上がって起きる。南海トラフ地震は、約100~150年間隔で繰り返し発生。次の地震までの間隔は大きな地震が起きた後ほど長く、小さな地震の後は短くなると考えられている。
調査委は、唯一現存する高知県・室津港に関する江戸時代の古文書の記録を踏まえ、過去の地震発生時に海底が持ち上げられた高さ(隆起量)で地震規模を推定し、確率を算出してきた。
しかし、最新の研究で、同港は定期的に掘削工事を行っていた可能性があるなど記録に疑義があることが判明した。さらにプレートのひずみは一定の間隔で蓄積せず、ばらつきがあるため、数値に幅を持たせる形で確率を改訂した。
一方、調査委は今回、地震の発生間隔の予測に隆起量を用いない確率も別途算出し、「20~50%」になったと発表した。この算出法は、南海トラフ地震以外の海溝型地震に使ってきた。一つの地震に二つの確率を示すのは異例だが、調査委は「科学的に優劣がつけがたい」として併記した。
ただ、調査委は、防災対策を進める観点から「より高い『60~90%程度以上』を強調することが望ましい」としている。平田直委員長(東京大名誉教授)は「確率は年々上昇し、いつ発生しても不思議ではない状態に変わりはない」と話す。
南海トラフ地震を巡っては、政府の中央防災会議が7月、最新の被害想定に基づく「防災対策推進基本計画」を改めたが、今回の確率見直しによって変更する予定はないという。
◆南海トラフ=海側のフィリピン海プレートが陸側のユーラシアプレートの下に沈み込む境界にある溝。静岡県の駿河湾から宮崎県沖の日向灘まで約700キロ・メートルにわたって延びている。