ラブホ通いが問題になった前橋市長や学歴詐称疑惑の伊東市長を始め市長の不祥事は枚挙にいとまがない。
別掲の図を見ていただきたい。最近発覚した市長の不祥事・トラブルが全国で7件もある。
なぜ、問題市長がこんなに多いのか。その背景に、自治体を運営する市長には法律上、強大な権限が与えられ、ワンマンになりやすいという面があることは見逃せない。
「米国大統領より強い」と言われる首長の力の源泉は主に3つある。
1つ目が条例や予算の「専決処分」だ。
自治体の予算や条例は議会で議決するのが原則だが、地方自治法では、緊急時などに、首長が重要な案件を議会を通さずに決定することが認められている。
政治学者の白鳥浩・法政大学教授が指摘する。
「日本の首長制度というのは、米国の大統領制度に沿って作られたとされています。大統領個人に権限を集中させるという建て付けです。トランプ大統領は重要な政策でも議会を通さずに大統領令を出して実行しているが、この大統領令に相当するのが首長の専決処分です」
かつてこの権限を濫用したことで知られるのが鹿児島県阿久根市の竹原信一・元市長だった。
竹原氏は市役所の課長会で「今後は専決処分で決める」と宣言し、批判派が多い市議会を招集しないまま職員や市議の給与削減から、補正予算の決定、副市長の選任(議会の同意が必要)など19件もの専決処分を行なって市政を”独裁”した。
2つ目が「拒否権」だ。
議会が議決した事項に異議がある場合、首長は「拒否権」(地方自治法176条)を行使し、議会に再議を求めることができる。米国大統領にも同様の権利が認められている。
そして米国大統領にもない首長の強大な権限が、議会の「解散権」(同178条)だ。
地方議会で首長の不信任が成立すると、不信任された首長は議会を解散し、選挙に持ち込んで有権者の判断を仰ぐことができる。
国政では首相の解散は「伝家の宝刀」とされるが、解散総選挙に踏み切った場合、首相本人を含めて衆院議員全員が議席を失う。しかし、首長は議員ではないため、議会を解散しても立場を失うのは議員側だけである。
首長のなかでも都道府県知事は所掌事務の範囲が非常に広く、すべてを1人で決裁するのは難しい。その点、市長は行政の細部まで自ら判断できるとされる。それだけに政界では「知事より市長のほうが利権に介入しやすい」(市長経験者)とも言われる。そんな強大な権限と多くの利権を持つ市長が、”ミニ・トランプ”化して与えられた権力に酔うから、不祥事が絶えないのである。
※週刊ポスト2025年10月10日号