道頓堀ビル火災、導火線になった屋外広告幕 規制緩和でリスクに 炎で退路失った消防隊員

大阪ミナミの繁華街・道頓堀川沿いで8月、消防隊員2人が犠牲になったビル火災では、屋外広告が導火線のように作用し、一気に上層階に燃え広がった。現場はにぎわい創出のため広告物規制が緩和され、大型看板が林立する大阪屈指の観光名所だが、火災時の危険性があらわに。行政によるチェック体制の不備も指摘されている。(木下倫太朗)
大阪市消防局によると、火災は8月18日午前9時45分ごろ、大阪市中央区宗右衛門町の道頓堀川沿いのビルで発生。東西に隣接するビル2棟のうち、西側ビル1階から出火し、2棟で計約100平方メートルを焼損した。この火災で東側ビルで消火活動をしていた消防隊員2人が死亡した。
同局は延焼経路について、西側ビルの外壁に設置された装飾広告(縦8・62メートル、横4・16メートル)を伝って火が上方へ広がり、東側ビル5階の窓ガラスから建物内に燃え移ったと推定。装飾広告が延焼を加速させた可能性が高い。
大阪市屋外広告物条例では、広告物の設置・更新時に許可申請するよう規定。火災で焼失した装飾広告は平成24年に大阪府内の食品会社が新規申請し、これまでに5回更新されていた。
建築基準法は、高さ3メートルを超える広告物について、不燃材料の使用を義務付けてはいる。だが実際にそうした材料が用いられているかどうか、現地で確認する手続きは定めていない。
一方、同法は広告物の高さが4メートルを超える場合に、設計図や建築工程を審査する「工作物確認」が必要と規定している。この工作物確認の過程で不燃材料のチェックを行うことも可能といえば可能だ。
ただ今回の装飾広告は金属製のフレームにロープ状のもので広告幕を取り付ける構造になっており、同法を所管する大阪市計画調整局は「工作物確認の対象はフレームであり、そもそも幕は対象になっていない」との見解を示す。つまり、延焼予防の観点から義務付けられた不燃素材の使用の有無は事実上ノーチェックだったことになる。
また同局によれば、既存のフレームに新しく広告幕を設置する際には、枠の工作物確認も不要だという。今回のフレームは24年の広告設置以前から存在していたとみられるが、工作物確認がいつ行われたかについて、同局は「不明」とした。
火災現場となった道頓堀周辺は「グリコ看板」に代表されるような大型看板・広告物が多数設置され、華やかな景観を生み出している。にぎわいの創出を目的に、市が昭和62年以降、広告物規制を緩和する措置をとってきた結果だ。
従来の規定では、設置できる広告物の大きさは建物壁面の3分の1が上限だったが、道頓堀川に面するビルの壁面については、5分の4以下までと大型化が可能になっていた。
ただ今回の火災で明らかになったように、広告の大型化は急速な延焼拡大のリスクと隣り合わせだ。大阪市は道頓堀川沿いの広告物について、掲示状況の確認など点検を進めるとしている。横山英幸市長は「手続きの厳格化や申請の際に(部局間で)連携を密にできる方法を模索する。もし条例改正が必要なのであれば改正していく」と話している。

■延焼広告に使用された「ターポリン」軽量性や安さが特徴 火災後高まる設置者の遵法意識

建築基準法に基づく規制とは別に、大阪市は屋外広告物条例に基づき、広告物の設置・更新を許可制にしている。ただ大阪市建設局の担当者によると、申請や更新は原則書面のみで、広告の構造や材質について「現地確認は、基本的には行わない」とした。
申請時には、屋外広告士などの資格を持つ管理者による「点検報告書」の提出が必要だが、広告板の腐食や支柱の老朽化など広告物としての耐用性の点検に主眼が置かれており、防火面での項目は見られなかった。
今回、延焼拡大の原因になったと指摘される装飾広告には、不燃素材の使用が義務付けられていた。大阪府内の食品会社が平成24年の設置時に提出した申請書では、「ターポリン」というポリエステル製の布などを合成樹脂で挟んだものが使用素材と記載されていた。
屋外広告の企画・設置などを行う大阪府池田市の「ワイロード企画」の藤原和俊社長によると、ターポリンは他の素材と比べて安価で軽く、丸めて運搬できることから、施工費が抑えられるメリットがある。
市が火災後、広告素材について食品会社側に改めて問い合わせたところ「防炎製品とされているターポリンだ」と説明したという。焼失した広告の構造について、食品会社側は取材に対し「お答えできない」とした。

■元東京消防庁麻布消防署長、坂口隆夫氏「行政による現地確認の義務化を」
屋外広告物を経由して屋内に火災が延焼した事例は珍しい。耐火構造の建物では、上階や隣接する建物に火が燃え移る可能性は低い。広告物の介在により、消防隊にとっても想定外の延焼経路となったのではないか。
何より、条例をもとに広告物の設置許可を出す行政側の現地確認が不十分で、書面や写真だけのチェックになっていたことが一番の問題だ。防炎材料でも経年劣化により性能が落ちることは十分考えられる。規制緩和され、広告が立ち並ぶ道頓堀周辺は、定期的に現地確認を行うべきだった。
建築基準法では広告物を工作物としてとらえ、構造上の強度を重視しているが、防火面にもさらなる重きを置くべきだ。今回の火災を教訓に、広告物に関しても定期的な確認を義務付ける必要がある。

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