電車内で当時高校1年の女子生徒に性的暴行を加えたとして、不同意性交等罪に問われた元滋賀県守山市職員の被告(42)に対し、京都地裁は10月28日に判決を言い渡す。検察側は「卑劣な犯行」として懲役5年を求刑。一方弁護側は「アルコールの影響もあった」などと執行猶予付き判決を求めている。恐怖で助けを求められなかったという女子生徒。京都府警はスマートフォンの画面で被害を伝えることができる「痴漢ヘルプミーカード」の活用も呼び掛けている。
2人掛けシートで犯行
「恐怖と驚きで声が出せなかった」。性的暴行の被害に遭った女子生徒は、京都府警南丹署の捜査員にこう打ち明けたという。
起訴状によると、木曽俊也被告は5月15日夜、JR山陰線の電車内で、隣に座っていた帰宅途中の女子生徒の下半身をさわったとしている。
検察側によると、女子生徒は京都駅から乗車。当時乗客は少なく、2列掛けシートの窓側に座って居眠りをしていた。
被告は同じく京都駅から乗車。電車が嵯峨嵐山駅付近を通過したあたりで女子生徒の隣に座り、眠っているのを確認した上で犯行に及んだとされる。
恐怖から身動きが取れずにいた女子生徒は約20分後、電車が駅で止まったタイミングで走って逃げ出し、直後にSNSで友人へ「痴漢された」とメッセージを送信。翌日、高校の教諭に相談し発覚した。
被告は事件後、女子生徒と同じ駅で降車し構内から出た後、再入場して反対方向の車両に乗車。その様子が駅構内の防犯カメラに捉えられていたほか、被告の交通系ICカードの乗車記録でも一連の行動が裏付けられ、7月に同容疑で逮捕された。
被告は「酒に酔って気が大きくなっていた」などと供述。その後起訴され、懲戒免職となった。
不倫や酒に溺れ
公判では、被告の身勝手な動機や私生活が露呈された。検察側は冒頭陳述で事件に至る動機として、「数年前に不倫をして以来、妻に夜の営みを拒まれていた」と指摘した。
守山市によると、被告は20年近く同市で勤務。事件前までの勤務態度に問題はなかったという。 だが、弁護側の被告人質問では被告がアルコール依存症をわずらっており、過去に酔ってタクシー運転手とトラブルになり、警察に通報されたことも明らかに。妻からは飲酒をやめるように再三にわたり注意されていた。
被告は法廷で「被害者に多大な恐怖と不快感を与えた。自らの身勝手さを痛感している。心を入れ替え、一生反省し続けたい」と謝罪した。
検察側は論告で「自らの身勝手な行動を機にすさんだ夫婦関係が原因の一つ」と指弾し、懲役5年を求刑。弁護側は最終弁論で「被害者と和解が成立している」として、執行猶予付き判決を求めた。
性被害、法整備で認知件数増加
被告が問われている不同意性交等罪は令和5年の改正刑法で強制性交等罪に代わり新設された。性交渉の解釈も拡大され、より被害者側の視点に立った法整備が行われた。
こうした背景から、被害の認知件数は同年の2711人から6年は3936人、今年は1~8月だけで2705人(昨年同期比6%増)となった。平成29年7月に強姦罪(ごうかんざい)が強制性交等罪に改正された際にも認知件数は同年の1109件から、平成30年の1307件へと増えた。
性暴力被害者の支援に取り組む特定NPO法人「しあわせなみだ」(東京)の千谷直史代表理事は「認知件数の増加は法改正前に見過ごされてきた被害者を救済できるようになったと捉えるべきだ」と指摘。性暴力を減らすためには刑法の厳罰化だけでなく「相手が嫌がる性的な行動はすべて性暴力につながるという認識を広げる必要がある」とし、幼少期からの倫理教育の重要性を訴えている。
電車内でSOSどうすれば…
今回のように電車内で性的被害に遭い、身の危険を感じた場合、どうSOSを出すべきか―。
京都府警鉄道警察隊は、府警のホームページからダウンロードできる「痴漢ヘルプミーカード」の活用を呼びかけている。被害者はスマホの画面上に「痴漢です。助けてください」などのメッセージを表示し、周囲に助けを求めることができる。
また、痴漢を目撃した人に向け、被害者に「ちかんされていませんか」と尋ねる「痴漢ヘルプユーカード」もある。
同隊の担当者は「警察としては通報していただくことが最善だが、現実的には難しいこともある。周囲の人に助けを求めるのも有効だ。自分で通報することが難しい場合は犯人の特徴や写真、乗車駅、降車駅などを覚えているとその後の検挙につながりやすい」としている。