[The論点]
女子大の苦境が深刻です。少子化に加え、高校生の共学志向や女子大離れが高まっているためです。生き残りをかけて共学化にかじを切る女子大が相次ぐ一方、建学の精神を貫いて「女子大学宣言」を掲げる大学も現れました。女子大の存在意義について、皆さんはどう考えますか?
[A論]男女共学化で多様な学びを…新たな教育や研究探る
女子大で全国最大規模を誇る武庫川女子大(兵庫県西宮市)が7月、2027年度から男女共学化することを発表しました。関西では「ムコジョ」の愛称で親しまれる名門女子大ですが、この5年で一般入試の志願者数は半減。高橋享子学長は共学化に踏み切る理由について「少子化や、社会の多様化で女子大離れは顕著だ。性別にかかわらず開かれた大学として社会に貢献していく」と話します。
学生の受け止めは様々です。中止や延期を求める署名活動も起きましたが、ある2年生(20)は「慣れ親しんだ大学生活が変わるかもしれないのは不安」と話す一方、「授業などで様々な視点や考え方に触れられるのは楽しみ」と前向きに捉えています。
少子化で、18歳人口の減少が深刻になるなか、女子だけをターゲットにした女子大は難しい選択を迫られています。鎌倉女子大(神奈川県鎌倉市)も、29年度から共学化することを決めました。今年度の定員充足率は108%と、経営的には問題ありませんが、福井文威副学長は「追い込まれてから判断するのでは遅い。大学進学者数の動向を踏まえ、共学に新しい教育や研究の可能性を見いだしていきたい」として将来を見据えて先手を打った形です。
共学化が奏功した事例もあります。05年度に共学化した京都橘大(京都市)は、それまで文、文化政策の文系2学部のみでしたが、健康科学部や工学部などを新設し、現在は9学部を擁する総合大学に規模を拡大。共学化前に比べ志願者数は約13倍、学生数は約4倍に増えました。
共学化する大学が増えている背景には、受験生の意識や志望動向の変化もあります。スタディプラストレンド研究所(東京)が7月、全国の女子高校生約1000人を対象に実施したアンケート調査では、「女子大は志望しない」との回答が5割近くに上りました。幼稚園から高校まで女子校で学び、大学から共学の早稲田大(東京都新宿区)に進学した女子学生(19)は「女子校では似たような価値観の同級生が多かった。社会に出る前に、性別や育ってきた環境が違う仲間と出会いたかった」と振り返ります。
大手予備校の河合塾によると、最近は女子大に多い人文系や家政系を志望する女子受験生が減り、逆に女子大には少ない経済・経営や工学系の人気が高まっているといいます。河合塾の近藤治・主席研究員は「社会の変化とともに女子の実学志向が高まり、理系や社会科学系の学部が少ない女子大は選ばれにくくなっている」と分析しています。
[B論]「女性だけ」の強みを磨く…就職支援はきめ細かに
「建学の精神に基づき、女子大学であり続けることを宣言します」
7月、京都女子大(京都市)がホームページ上で公表した文書が大きな話題になりました。同じ関西にある武庫川女子大の共学化方針を受けたもので、竹安栄子学長は「学生や保護者から『京女は大丈夫か』と心配する声が上がり、すぐに大学の考えを発信するべきだと考えた」といいます。
日本は世界の主要国に比べ、女性の管理職や政治家の割合がとりわけ低いという課題があります。竹安学長は「ジェンダー平等を目指す社会だからこそ、女性が性差を気にせず存分に学べる環境が必要だ」と述べ、女子大の存在意義を強調します。3年生の学生(21)は「同じ志を持った仲間と一緒にのびのびと学ぶことができるのが魅力。女子大を選んで良かった」と、女子大に誇りを感じています。
女性リーダーの育成を目指して「共闘」する大学もあります。東京都内にある津田塾、日本女子、東京女子、大妻女子、東京家政の五つの女子大の学生と教員は、ICT(情報通信技術)を学ぶ「WUSIC」という組織をつくり、5年目になります。社会で活躍するために必要なデジタル関連の素養を学んでもらい、ICTを活用できる女性リーダーを育成するのが狙いです。
今夏も大手IT企業の支援を受け、アプリ開発などに挑戦するイベントを開きました。参加した大妻女子大2年の学生(20)は「高校は共学で、目立つ男子の陰に隠れがちだったが、少人数の女子大では自ら発言や行動をしないと授業が進まない。こうしたプログラムに参加しようという積極性が身についたのも女子大に入ったからだと思う」と笑顔を見せます。
親の視点からも、女子大を支持する声が上がります。関西の女子大に通う娘を持つある母親は「キャリア教育や就職活動の支援など、女子大ならではのきめ細かな指導をしてくれることも安心感につながる」と話します。
志願者数の減少など、女子大を取り巻く環境は厳しさを増しています。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんは「競合が増えることを考えると、必ずしも共学化が女子大生き残りのための万能薬ではない」と指摘。そのうえで、「女性だけの学びの環境を求める学生や保護者は一定数はいる。女子大として存続を目指すならば、受験生の学びのニーズを的確に捉え、志願者数増加につながるような学部・学科の新設や再編を積極的に行っていくことが重要だ」と強調しています。
少子化の進行や働き方も変わり…環境激変
女子大を巡る環境は、この四半世紀で激変しました。女子大を研究してきた安東由則・武庫川女子大教授(教育社会学)によると、4年制の女子大はピークだった1998年度には98校もありましたが、2024年度は71校と、3割近く減りました。定員割れに陥る女子大が約7割に上るなど、志願者数の減少で経営が苦しくなり、共学化や募集停止に踏み切る女子大が増えたためです。
共学化の「第1波」は00~04年度で、計12校が共学化しました。進学率の上昇に伴って大学の数が増え、学生の獲得競争が激しくなったことが背景にあります。また、女性の正規雇用が増えるなど働き方も大きく変わり、女子大に多い文学部などの人気が落ちてきたことも影響しているようです。
現在は共学化の「第2波」が押し寄せている状況で、今後5年間で10校近い女子大が共学化を予定しています。これらの大学を見ると、地方や郊外の小規模な大学が多く、知名度や交通利便性、ブランド力を持った都市部の大学との二極化も鮮明になっています。
安東教授は「少子化で18歳人口が減少するなか、高校生の半分(女性)にしか訴求できない女子大の厳しい状況は今後も続く」と指摘。そのうえで「選ばれる大学になるには、女性ならではのキャリア教育や就職の面倒見の良さ、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に縛られない環境など、それぞれの特長や強みをアピールする経営戦略が欠かせない」と話しています。(教育部 染木彩、古郡天、武石将弘)
[情報的健康キーワード]データポイズニング
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生成AIはネット上の膨大なデータを学習しています。学習データに偽情報が混入すると、それが「毒」となり、AIは間違った回答をするようになります。
例えば、一部の生成AIが親ロシア的な回答をするのは、ウクライナに関する偽情報を含むロシア側のプロパガンダがネット上に大量拡散し、それを学習しているからだと指摘されています。データポイズニングの影響を受けたAIは、偽情報の新たな発信元となる恐れもあります。
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