混沌としていた首班指名の行方は、野党第二党の日本維新の会が、自民党と連立も見据えた政策協議を始めたことで、高市早苗氏が首相に就任する可能性が一気に高まった。いっぽう、その裏では立憲民主党から首班指名の「有力候補」とラブコールを送られ、注目を集めてきた国民民主党の玉木雄一郎代表が首相になれない様相に。玉木氏は「政策実現」の旗印も維新にとられかねず、戦略の見直しを迫られている。
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連立の本命のはずが、立憲に高い球を投げている間に…
自民党総裁に就任した高市氏がもともと連立の本命相手と目論んでいたのは、玉木氏率いる国民民主だった。
「高市氏の後ろ盾となっている麻生太郎副総裁が玉木氏と近いこともあり、高市氏は総裁就任直後に玉木氏と極秘に面会するなど、国民民主との連携に傾いていました」(全国紙政治部記者)
「高市内閣」の重要閣僚の名前が徐々に報道され始めたものの、財務相は具体的な名前が出ず、永田町では「玉木氏のために財務相ポストを空けてある」とみられていたほどだった。
いっぽう、野党第一党の立憲民主党も玉木氏を引き込もうとした。立憲の安住淳幹事長が、「(野党が)玉木氏でまとまれるのであれば、我々としても有力候補だと考える」と述べるなど、立憲・維新・国民民主で「玉木首相」を担ぐことを提案。
だが、玉木氏は安全保障や原発などの基本政策を一致させるよう求め、政策で溝がある立憲に対してハードルを下げることはなかった。
こうして立憲・国民が首班指名への対応でまとまれるかの議論がくすぶっていたさなか、維新は自民との政策協議開始を決断。自民と維新が首班指名で「高市早苗」と書くことでまとまれば、高市氏が首相に就任する公算が大きくなるため、「玉木首相」の可能性はほぼ消滅した。
玉木氏は「維新が加わるなら、我々が連立に加わる必要もなくなった」と述べ、玉木氏が財務相に就任する可能性も極めて低くなったといえる。
維新に手柄をとられる……戦略の見直しも
「玉木首相」も「玉木財務相」も幻となり、国民民主内には安堵と困惑の双方の感情が入り混じる。
「玉木氏も、考え方に違いのある立憲や維新と一緒に政権運営をしても行き詰まることは目に見えていた。自民と維新が接近することで、玉木氏が無理やり首相に担がれることもなく、連立にも入らずに済む理由ができてちょうどよかったのでは」(国民民主関係者)
ただ、これまで少数与党に対して「年収の壁」引き上げなどを要求し一定の成果を上げてきた玉木氏は、戦略の練り直しも迫られそうだ。
「国民民主は『手取りを上げる』など、有権者の支持を得られる公約を掲げ、実際に政府与党に実現させることで、注目を集めてきた。でも今後維新が連立入りすると、ガソリン暫定税率の廃止など、これまで国民民主も主張していたことが実現しても維新の手柄のように見られてしまう。
有権者が『同じようなことを主張しているのなら、与党で政策を実現できる維新に投票しよう』という流れないかが心配だ」(同)
立憲「首班指名で『玉木』と書きたくなかった人もいる」
いっぽう、「玉木首相」「玉木財務相」が幻となったことで安堵の声が広がっているのが立憲だ。
「玉木氏が『基本政策の一致が必要』と主張するのに応じて、野田代表が譲歩に譲歩を重ねていたのが気がかりだった。政権交代の可能性がほぼ消えたなら、立憲議員は首班指名で野田氏の名前を書けばいい」(立憲議員)
野田氏はこの間、集団的自衛権の限定行使を容認した安保法制に関して「明らかに違憲だったことは私の知る限りない」と述べるなど、従来「安保法制の違憲部分の廃止」を訴えてきた立場からは国民民主側に歩み寄る姿勢も見せた。
ただ、これには党内のリベラル派から「立憲と国民民主では議席数にも圧倒的な差があるのに、玉木氏に対して下手に出すぎだ。屈辱的だ」との声も漏れていた。
立憲と国民には政策的な溝だけでなく、感情面のしこりもある。
「党内には小選挙区で国民民主に候補者を立てられ、国民民主候補と戦ってきた議員もいる。首班指名で『玉木雄一郎』と書きたくなかった人もいるだろう」(立憲議員)
また、ここに来て玉木氏と榛葉賀津也幹事長が、かつて榛葉氏が民進党代表選で蓮舫氏を支援したことを「黒歴史」と笑いながら語った動画を公開し、蓮舫氏が「悪口を笑いながら広める行為」と拒否感を示すなど、両党の溝は深まるばかりだった。
「今回玉木氏への首班指名が検討されたが、立憲と国民の溝はなかなか埋まらないことが改めて浮き彫りになった。玉木氏が首相になるには、やはり自力で国民民主の勢力を拡大するしかないのでは」(立憲議員)
首班指名をめぐる一連の駆け引きのなかで「内閣総理大臣を務める覚悟はある」と何度も強調していた玉木氏。今回は首相も財務相の座も遠のいたが、再びそのチャンスを手繰り寄せられる日が来るだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班