三重県名張市の国道で10月、軽乗用車が横転し16~23歳の男女5人が死亡した。定員4人の車に6人が乗る定員超過、大幅な速度超過、果てはシートベルトを締めていなかった可能性も…。警察の捜査で明らかになったのは安全軽視も甚だしい無謀な運転だ。全国的には高齢ドライバーの交通事故が目立っているが、実は10万人あたりでみた事故発生率は10代が最多で、20代前半がそれに続く。若者の事故は交通ルールの軽視によるものが目立っており、専門家は「軽率な運転には重い代償がある」と警鐘を鳴らす。
黒い電柱、縁石の傷…衝撃のすさまじさ
片側1車線のなだらかな坂を上り切ると、緩やかな右カーブが現れる。見通しもよく、制限速度の時速50キロで走ると、全く危険を感じることはない。しかし、10月3日の午前0時10分ごろ、ここで事故は発生した。
闇の中を猛スピードで走っていた軽乗用車がカーブを曲がり切れず、電柱に衝突したとみられる。車でこすったような白い傷が20メートル以上続く縁石や、衝突によって黒く変色したとみられる電柱が、事故の激しさをものがたる。
三重県警によると、4人乗りの車には高校生3人を含む計6人が乗車。事故で全員が車外に投げ出され、5人が死亡、1人が重傷を負った。シートベルトは装着していなかったとみられ、司法解剖でアルコールが検出された遺体もあった。運転者が誰かは捜査中だが、車の所有者は死亡した男性(20)だった。
関係者などによると、現場手前の速度は時速100キロ超に達していたとみられる。県警は定員超過による車体の重さと高速度などで車を制御できず、カーブを曲がり切れなかった可能性があるとみて、事故原因などを調べている。
若者無謀運転「スリル味わう」目的か
こうした無謀な運転は若年ドライバーに多い。警察庁によると、令和6年に各年代が何件の事故を起こしたかを免許保有者10万人あたりに換算して比較した場合、16~19歳が976件▽20代前半が551件▽85歳以上が496件▽80代前半が416件▽20代後半が399件-の順で多かった。
さらに10代は、事故発生率が最も低い40代後半と比べ、原因が速度違反の事故が20倍超で、わき見運転や安全不確認といった安全運転義務違反も3倍超。元千葉県警の交通捜査官で、「交通事故調査解析事務所」(千葉市)の熊谷宗徳代表は「若年層の事故はスリルを味わおうとして起きていることが特徴だ」と指摘する。交通ルールを軽視し、運転技術が未熟なことも事故の多さにつながっているという。
定員超過などによる事故は相次ぎ、2月には茨城県神栖(かみす)市で当時18歳の会社員が運転し、計7人が乗った軽乗用車(定員4人)が横転して1人が死亡した。福島県いわき市では令和3年7月、当時18歳の専門学校生運転の車(定員5人)に6人が乗車し、一般道を時速150キロ超で走行。カーブを曲がり切れず、衝突した橋の欄干が車体を貫通して1人が死亡した。
特に危険な運転は、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金を科す過失運転致死傷罪ではなく、最高刑が拘禁刑20年と格段に重い、危険運転致死傷罪に問われることもある。三重県警も今回の事故について、危険運転致死傷罪の適用を視野に捜査する。
同罪は「進行制御困難な高速度」などが要件だが、交通問題評論家で元弁護士の加茂隆康氏によると、「定員の大幅な超過は車の制御を困難にする要因になり、法令適用の際に考慮される可能性がある」という。
また交通ルールを守らずに事故を起こせば、運転者が刑事・民事上の責任を問われるほか、同乗者も保険で十分な補償を受けられない場合もあり、加茂氏は「運転者も同乗者も危険な運転の重大なリスクを理解し、絶対にしないでほしい」と強調する。
ハードル高い危険運転致死傷罪 あいまい要件の見直し議論も
自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪を巡っては、時速100キロを超える事故でも「過失」と判断された事例もあり、適用のハードルの高さが問題視されてきた。
大分市の一般道で令和3年2月、当時19歳の少年が運転する車が時速194キロで交差点に進入して起こした死亡事故で、大分地検は当初、過失致死罪で起訴。遺族の強い要望などを受け、危険運転致死罪に訴因変更し、昨年11月の大分地裁は懲役8年を言い渡した。
一方、3年7月の福島県いわき市の事故には、過失運転致死傷罪が適用され、運転していた少年には執行猶予付き判決が言い渡されている。
こうした適用の「あいまいさ」から、法相の諮問機関の法制審議会では、要件見直しに向けた議論が進む。
その中では運転手の血中・呼気中のアルコール濃度や超過速度の数値基準などを検討。9月の部会で具体案が初めて示された。また、車を制御できていても危険性・悪質性が高い速度があるとして、「対処困難」の類型も検討されている。
一方、運転技術や道路の状態など事故状況は一様ではないため、一定の基準を設けることは困難との声もあり、慎重な議論が続いている。(永井大輔、喜田あゆみ)