真空状態の宇宙空間に約9か月間さらしたコケの胞子が、地上で問題なく発芽し成長したとの研究結果を、北海道大などの研究チームが発表した。強い紫外線や大きな温度差がある環境でも胞子が生き延びられることが示され、火星などを人間が住める環境にする「テラフォーミング(地球化)」に応用できる可能性がある。論文が21日、米科学誌「アイサイエンス」に掲載された。
藤田知道・北大教授(植物分子生物学)らのチームは、実験植物としてよく使われる「ヒメツリガネゴケ」の胞子約48万個をアルミ容器に入れ、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」船外の宇宙空間に約9か月間放置した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、船外の温度は120度~マイナス150度程度になるという。地球に回収した後に栽培すると、86%が発芽し成長した。紫外線をカットするフィルターを容器につけたサンプルでは100%近かったという。
クマムシや細菌の一種、大麦の種子などは宇宙空間でも生存できることがわかっていたが、コケ類で示されたのは初めて。
藤田教授は「コケは約5億年前、海から陸上に初めて進出した植物とされ、環境適応能力が高いが、宇宙空間で8割以上生き残ったのは驚きだ」と話した。
高橋昭久・群馬大教授(宇宙生物学)の話「コケが胞子状態で宇宙を旅できる可能性が示され、意義深い。コケが土となって他の植物が育つ素地になるため、テラフォーミングの第一歩となる可能性を秘めている。今後、宇宙空間で胞子をどうやって発芽・生育させるかが課題だ」