消防団員「言葉を失う光景だ」
漁師町で上がった火の手は、住宅など170棟以上を巻き込む猛火となった。大分市佐賀関で起きた大規模火災は19日に1人の死亡が確認され、発生から丸1日が過ぎても鎮火の見通しが立っていない。避難した住民たちは被害の全容が見えない状況に、不安を募らせている。
「涙も出ません」。自宅が炎に包まれ、焼け落ちていく一部始終を目の当たりにした会社員の男性(51)は肩を落とした。
18日夕、自宅の敷地内にいた時に火災に気づいた。当初、通りの向かい側にあった火は、時折向きを変える強風によって四方に動いた。瞬く間に空一面に舞い上がる火の粉は大きく、くっきりと見えた。
ガスボンベが爆発するような大きな破裂音も聞こえ、知り合いの家も次々に炎にのまれていった。「延焼が止まってほしい」という願いも届かず、自宅にも燃え移った。避難した高台から、焼ける様子をぼう然と眺めることしかできなかった。
同居する弟と娘は無事だったが、住み慣れた家を失った。「火事で家も物も気持ちも全てが無にされたような感じ」。煙のにおいが消えない服を身につけたまま、静かに語った。
佐賀関公民館に避難した男性(67)は、両親の位牌や着替えなどを持ち出すことが精いっぱいだった。自宅の洗面所のガラス窓が割れて火が噴き出し、避難を決めた。昔の柱や梁が残る築160年の家が焼けた。「もう、全てなくなった。やっぱりつらいね」と言葉を絞り出した。
同公民館に避難している女性(52)は「持病の薬を家に置いたままで、不安だ。早く家に帰りたい」と疲れ切った様子で話した。
現場付近では19日夕も白煙が立ち上り、消火活動が続いた。消防団員の男性(50歳代)によると、道が狭い上に入り組んでおり、消防車両が入れず、ホースを何本もつないで消火にあたっているという。ただ、至る所で火種がくすぶり、残り火の処理が追いつかない。「辺り一面が焼け野原で言葉を失う光景だ。仲間も夜通しの作業で疲弊している」
周辺住民らによると、連絡が取れていない男性(76)は長年漁師をしており、5、6年前から今の家で暮らしていた。最近は体調を崩して入退院を繰り返していたという。
被災した地域は高級魚の「関あじ」「関さば」で知られる漁師町。大分県漁業協同組合佐賀関支店の佐藤京介支店長は「組合員のうち20~30人が被災したと思う。今月から来年3月にかけては関さばが旬の時期。支援などについて協議を進めていく」と話した。