[東日本大震災15年]復興の岐路<4>
15年前の3月11日夜。東京の幹線道路の歩道は、うんざりした表情で帰宅する人波であふれ返った。
当時さいたま市に住んでいた会社員(48)は、渋谷区の職場で地震に遭遇した。鉄道が止まり、「途中で動くだろう」と歩き始めてみたものの、何時になっても復旧しない。ごった返す道を革靴で20キロ以上歩いたが、足腰の痛みで動けなくなり、寒空の中で5時間待ってタクシーに乗った。
ようやく家に着いたのは翌12日朝だった。会社員は「あの時の痛みは今も忘れられない。次に同じようなことがあれば、まずは職場で待機する」と話す。
「群衆雪崩」
東日本大震災当日、JR東日本が首都圏の全路線を終日運休するなど鉄道網がマヒし、内閣府の推計では首都圏の帰宅困難者は約515万人に上った。
都内で最大震度5強を観測した2021年10月の千葉県北西部の地震をはじめ、帰宅困難者が生じる災害は震災後も相次ぐ。JR東関係者は「線路の安全を確認するまで運行を再開できない。大地震が起きれば一定期間運転できないのは今も変わらない」と明かす。
徒歩での帰宅は深刻な危険性もはらむ。東京大の広井悠教授(都市防災)は、首都直下地震で約600万人が一斉に徒歩で帰宅するとの想定で各地の歩行者密度を試算。東京駅や新宿駅周辺などでは、電話ボックス大の1平方メートルに6人超が密集することが判明した。
22年に韓国ソウルで150人超が死亡した雑踏事故のような「群衆雪崩」の恐れもある。広井教授は「災害の規模が大きいほど人々の心理も乱れ、事故の恐れも高まる。帰宅困難の問題を軽く考えるべきではない」と警鐘を鳴らす。
外国人対応
震災を機に対策も講じられている。東京都は一斉帰宅を防ごうと、従業員向けの水や食料の備蓄を企業の努力義務とする条例を制定し、一時滞在できる企業ビルなどの確保を進めている。一方、三菱地所や千代田区などは帰宅困難者向けに、一時滞在施設の混雑状況などの情報をリアルタイムで伝える体制を整えた。
新たな課題として浮上しているのが、急増する外国人への対応だ。東京圏だけで160万人の在留外国人を抱え、都内には年に2500万人近い訪日客が詰めかける。言語の問題もあり、災害時に適切に避難情報が伝わらない恐れもある。
語学専門学校「神田外語学院」(東京)は昨年10月、災害時に外国人を支援する学生ボランティアの育成に乗り出した。2月には学生らが秋葉原(千代田区)を歩いて避難情報などの標識を確認し、参加した香港出身者(30)は「多言語での避難案内が不十分だと感じた。大きな地震を経験していない外国人が多いので不安だ」と話した。
この取り組みを支援した秋葉原のまちづくり会社マネジャー土方さやかさん(50)は「災害時に宿泊先へ戻れず、混乱する外国人が相次ぐだろう。外国人向けの情報発信アプリなどの活用を幅広く呼びかけるべきだ」と指摘する。