山梨県が掲げる富士山登山鉄道構想の住民説明会が23日、富士吉田市で開かれ、長崎知事が肝いりの構想を約45分にわたって語った。反対を表明している堀内茂市長も会場に姿を見せたが、発言に立つことはなく、「直接対決」は不発に終わった。ただ、参加者からは質問が相次ぎ、約780人が詰めかけた会場は熱気に包まれた。
「富士山を守る価値観は共有している。(登山)鉄道は一つの提案。さまざまな意見をいただき、最善の解決策を導きたい」。会場となったホールの壇上でマイクを握った長崎知事が力説した。登山鉄道構想に反発する堀内市長が環境に優しい電気バスの導入を唱えていることを意識した発言だった。
登山鉄道構想は、富士山の麓と5合目を次世代型路面電車(LRT)で結ぶもので、登山者数を抑え、車の排ガスによる環境破壊や、大量の車が駐車することによる景観の問題などを解決するのが目的だ。しかし、堀内市長はLRT整備が信仰の山である富士山を傷つけるとして、「近年発達している電気バスで対応できる」などと反対している。
ただ、長崎知事が富士吉田市側に配慮を見せたものの、会場では鉄道優先と受け止めた参加者から不満の声も出た。「なぜ、電気バスの可能性に触れないのか」などといらだつ質問者がいたほか、「登山者数を制限するなら、富士スバルラインを規制し、(鉄道でなくても)シャトルバスのみとすれば一挙に解決するのではないか」との意見も出た。
会場では賛成派と反対派が張り合う場面もあった。LRTの乗車料金が往復1万円とされていることを巡って「高いのではないか」との意見が出ると、反対派が賛同を示す拍手をした。これに対し、長崎知事が「1万円払ってでも行きたいと思う場所を作りたい」と答えると、今度は賛成派から拍手が起こった。
約45分間の質疑後、報道陣の取材に対し、長崎知事は「賛成論、反対論も出たが、このように意見を交わす中で一定の方向性を示していきたい」と述べた。
一方、堀内市長は「時間をとって知事が説明し、市民の声を聞いていただいたことは意義深い」とした上で、「災害時の対策などを聞き、反対の思いが強まった」と話した。