九州と沖縄の防衛を担う陸上自衛隊西部方面隊が、攻撃を受けた基地滑走路の復旧作業にあたる新型のコンクリート製造車を導入した。陸自部隊への配備は全国で初となる。ロシア軍はウクライナ侵略の初期に空港を優先的に破壊して戦闘を優位に進めた経緯があり、滑走路機能を短時間で回復させる能力を高めることで、南西諸島の防衛力強化につなげる狙いがある。
統合演習で訓練
那覇空港(那覇市)に隣接する航空自衛隊那覇基地で今月15日、陸海空3自衛隊による統合演習の一環として滑走路の復旧訓練が行われ、陸自は九州から運び込んだ「コンクリートプラント車」を投入した。
訓練には同基地の空自隊員に加え、陸自那覇駐屯地(同)や小郡駐屯地(福岡県小郡市)の隊員らも参加。ミサイル攻撃などを受けて滑走路が破壊されたという想定でがれきを取り除いた後、コンクリートを流し込んで整地し、滑走路を復旧させる手順を確認した。
プラント車は自走可能で、通常のコンクリートより短時間で固まる「早強コンクリート」をその場で作ることができる。この日の訓練では、およそ2時間で約3メートル四方の穴の修復作業を終えており、自衛隊幹部は「滑走路が破壊されても、半日あれば自衛隊機が再び飛べるようになる」と自信をのぞかせる。
露の侵略機に
ロシアの侵略を受けたウクライナでは、各地の主要空港が相次いで攻撃を受けた。滑走路が使用不能になると、戦闘機が発進できずに制空権を失い、航空攻撃を受ける脅威が高まる。さらに、輸送機を使った部隊や物資の移動も困難になる。別の自衛隊幹部は「敵にとっては飛行中の戦闘機を撃墜するより効率的で、最優先で滑走路を狙ってくるだろう」とした上で、「領土防衛には早期に滑走路を復旧できる能力が欠かせない」とする。
日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、政府は昨年12月に国家安全保障戦略などの安保3文書を取りまとめた。陸海空に宇宙やサイバー領域も加え、既存の役割分担を抜本的に見直す「領域横断作戦能力」の向上も盛り込まれた。
滑走路の復旧は従来、基地を所管する空自の任務だったが、陸自へのプラント車導入も連携深化策の一つに位置づけられている。防衛省・自衛隊は「台湾有事」も視野に入れ、将来的には沖縄県にも配備する方向で検討を進めていく考えだ。