NHK「ニュースウオッチ9」コロナ禍報道、放送倫理違反と公表…BPO「報道の基本逸脱」

NHKが5月に放送した「ニュースウオッチ9」で、新型コロナウイルスのワクチン接種後に亡くなった人の遺族を感染者の遺族に見えるように放送した問題で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は5日、「事実を正確に伝えるというニュース・報道番組としての基本を逸脱した」などとして、放送倫理違反があったとする意見を公表した。
この問題では、NHK報道局映像センターの職員が、新型コロナの感染で死亡した人の遺族の声を伝えようと取材に着手したが、該当する遺族が見つからなかったため、ワクチン接種後に亡くなった人の遺族3人にインタビュー。広い意味では「コロナ禍で亡くなった人の遺族」と判断し、5月15日にワクチン接種後の死亡だと明示しないまま放送した。NHKは、取材に協力したNPO法人からの抗議を受け、翌日の同番組で謝罪。7月になって、この職員と上司をいずれも出勤停止14日、同番組の編集責任者を減給、編集長をけん責の懲戒処分としている。
同委の意見では、「本件放送の問題は事実を誤って伝えたというだけにとどまらない」と指摘。「言うまでもなく、ワクチン接種後に亡くなることと、コロナウイルスに感染して亡くなることとは全く別の事柄である。『人の死』という人間の尊厳にも関わる情報を扱う放送であるにもかかわらず、取材・制作に関わった者たちの取材の基本をおろそかにした行為や取材サポート、チェック機能の不備が重なったことによって、視聴者の信頼を裏切り、遺族の心情を大きく傷つけるという結果を招いてしまった」とした。
その上で、「ジャーナリズムを担う者として当然備えているべき現実社会についての知識や関心、問題意識の低下という事態が進行しているのではないかという危惧を抱かざるを得ない。チェックや管理の強化以前の問題として、現場の業務を担う人たちのニュースに対する感覚、ジャーナリズムに関わる感度の底上げが焦眉の課題となっているように思われる」と警鐘を鳴らした。

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