「学校が謝罪できるシステム必要」 いじめ・事故などの遺族会20年

学校でのいじめや体罰、事故などで子どもを亡くした遺族らでつくる「全国学校事故・事件を語る会」(事務局・兵庫県たつの市)が設立から20年を迎えた。代表世話人の内海千春さん(64)=同市=は「いじめ防止対策推進法」の制定など制度面の整備が進んだことを歓迎する一方で、被害者や遺族側と学校、教育委員会側の対立が進む現状を憂慮している。
内海さんの小学6年の長男は1994年、教師の体罰を苦に自ら命を絶った。市を訴えた民事訴訟で体罰と自殺の因果関係が認められ、裁判所は市に賠償を命じた。現役の中学校教諭だった内海さんは55歳まで教壇に立ちながら、「語る会」の中心者として遺族や被害者ら支援活動も続けてきた。
2003年の設立から20年の間に、国のいじめ対応は大きく変化した。大津市のいじめ自殺事件をきっかけに、いじめ防止対策推進法が13年に成立。いじめが幅広く定義され、防止と対応について自治体や学校の責務が定められた。生命や心身などに重大な被害が生じたり、長期欠席を余儀なくされたりした疑いがある場合は「重大事態」とされ、学校側に事実関係の調査、報告の義務を課した。内海さんは「それまでは被害者は泣き寝入りだったが一歩進んだ」と評価する。
文部科学省が全国の国公私立学校を対象に実施した22年度の調査によると、重大事態の発生件数は前年度比30・7%増の923件で過去最多。県内(公立のみ)も増加傾向にあり、22年度は74件、うち神戸市が50件を占めた。第三者による調査委員会が設置されるケースもあり、推進法施行後、神戸、尼崎、宝塚、加古川の各市と多可町で起きた児童生徒の自殺事案では、いじめが原因との調査結果を導き出した。
だが内海さんは、第三者委に全てを任せる風潮を危惧しているという。児童生徒に接し、実際に再発防止するのは現場の教員となるが「第三者委が調査している間、(学校は)加害者への教育などの対処ができない」と指摘。最終的には第三者委ではなく、教員が主体的に調査し解決するべきだと訴える。
新型コロナウイルス禍の3年間、語る会の活動はほぼ休止状態だった。内海さんはその間、被害者や自身を含めた遺族は何を求めているのか考え続けてきた。浮かんだのが「責任を取ってほしいではなく、謝罪がほしい」だった。学校への責任追及に力点を置くと、最後は損害賠償に行き着いてしまう。学校側も賠償責任を想定し、謝罪ができないというジレンマに陥っていると分析する。
「すまなかった、どうしたら助けられたのか、という思いを共有して学校側が謝罪することが対話のスタートだと思う。だから、学校が安心して『すいませんでした』と言えるシステムが必要なのではないか」と投げかける。【栗田亨】
全国学校事故・事件を語る会
1994年、内海千春さんら兵庫県内の学校事故などの4遺族が集まり、前身となる会を結成。2003年に全国組織となった。被害者や家族の相談を受けて支援するだけでなく、近況報告や相談をする集会やシンポジウムを開催。いじめや体罰を巡る学校の対応の改善を求め、文部科学省への要請や提言をしてきた。

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