<独自>サイバー補導は「面会要求罪」に抵触か 警察庁が各都道府県警に自粛求める

未成年者が援助交際などで犯罪に巻き込まれるのを防ぐため、警察官が身分を隠して交流サイト(SNS)で投稿者と接触し、面会指導する「サイバー補導」を巡り、警察庁が対応を改めるよう各都道府県警に伝えていたことが25日、分かった。警察庁は、今夏の刑法改正で新設された「わいせつ目的面会要求罪」に、サイバー補導の手法が抵触するとの疑念を抱かれないためとしている。
SNSを通じた子供の性被害が後を絶たず、各地の警察はサイバー補導を積極的に導入。男性から飲食の見返りに金銭を受け取る「パパ活」や、援助交際を呼び掛けるSNSの投稿を捜査員が見つけた場合、身分を告げず投稿者とやりとりし、実際に会って注意や指導をするなどしてきた。
ただ、今年7月施行の改正刑法で、わいせつ目的面会要求罪が新設。16歳未満に金銭提供を約束して手なずけるなどし、面会を求める行為が罰せられるようになった。
これに伴い、パパ活などを目的に未成年者を誘い、面会するというサイバー補導の手法が、同罪の規定する「わいせつ目的での面会を要求し、実際に会うこと」に抵触するのではとの疑念が浮上。補導にわいせつ目的はないが、警察官の身分を隠して面会を求めることなどが誤解を生じかねず、警察庁は7月末、各都道府県警に対し、従来のサイバー補導を控えるよう伝えた。
すでに各警察は自粛しているとみられ、面会せずに指導する手法に切り替えた警察もある。警察庁の担当者は「正当な警察活動であっても、国民に疑念を抱かせてしまう行為は控えなければならない」としている。
違法捜査?現場に戸惑いも
わいせつ目的面会要求罪の創設に伴い、警察はサイバー補導の変更を余儀なくされ、現場では戸惑いの声も出ている。専門家は「開かれた論議の末、市民感覚で判断をすべきだ」と指摘している。
サイバー補導は、平成21年7月から静岡県警が先行実施。25年4月から10都道府県警に拡大し、同年10月から全国に広がった。未成年者が関わる性犯罪などは、加害者と会う前のやり取りが全てSNS上で行われ、従来の街頭補導などでは抑止に限界があったためだ。
転機となったのが、今年7月のわいせつ目的面会要求罪の創設。SNSなどで未成年者を懐柔・勧誘する段階で取り締まりが可能となった。法制審部会のメンバーで、同罪創設の議論に参加した上智大の齋藤梓准教授(心理学)は「わいせつ目的で会うことや誘うことが、子供の安心を脅かすと社会に示せた」と意義を強調する。
一方で浮上したのが、サイバー補導の手法の違法性を巡る問題だ。面会要求罪の構成要件と似た行為を伴うサイバー補導を続ければ、国民に疑念を持たれかねないと考えた警察庁は、すぐに各警察に自粛を求めた。
ある警察本部でもサイバー補導を自粛。SNSでパパ活の呼び掛けなどを見つけた場合、警察の公式アカウントから注意喚起のメッセージを送るなど、面会しない手法に切り替えた。ただ、現場では「効果があったやり方を簡単に変えていいのか」「かえって未成年者の被害が増えるのでは」といった声も上がる。
これに対し、福岡県警本部長などを歴任した京都産業大の田村正博教授(警察行政法)は、サイバー補導に「わいせつ目的の面会」との意図はなく、「実施の有無は市民感覚で決めるべきだ」と指摘。「公安委員会の意見やパブリックコメントを募集するなどして開かれた論議をした末、市民の意思を反映して判断することが大事だ」と話している。
わいせつ目的面会要求罪 16歳未満に、わいせつ目的で威迫や偽計、利益供与など不当な手段を使って面会を要求する行為を罰する。罰則は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。実際に面会すれば2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。

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