逆風の祭典、高揚感は消え…大阪万博コスト上振れ リーダー不在「情報公開を」

空気が重い。壇上の2人は手元の書類に目を落とし、表情を曇らせた。
10月20日、大阪市役所の一室。横山英幸市長と吉村洋文大阪府知事は、2025年大阪・関西万博の運営主体「日本国際博覧会協会」(万博協会)とのオンライン会合に臨んでいた。
議題は最大の懸案である金(コスト)の問題。会場建設費の2度目の上振れについてだった。当初想定の1250億円は3年前に1850億円、さらに2350億円まで膨れ上がった。
協議は公開され、記者団には大枠の数字だけが記載された簡単な書面が示された。もっとも吉村、横山両氏に配布された書類も、同様に「中身のない報告」(府市関係者)だったという。
建設費負担は国、大阪府市、経済界が3分の1ずつ。吉村氏は上振れ分の数字の詳細開示を要求。「納得いかなければ突き返す」とも語った。
府市は11月になって上振れ容認を表明したが、今月14日の万博協会理事会では、会場建設費とは別のコストである会場運営費(人件費、警備費など)が、当初想定の809億円から約1・4倍の1160億円に増額される方針が示された。
「趣旨は分かるが、やはり実務的に一つ一つチェックを強化する必要があると判断した。収支をきちんと把握する第三者委員会が必要だ」
吉村氏はこの理事会で外部有識者で構成する「執行管理委員会」の立ち上げを提案した。協会だけにコスト管理を任せておけない-。そんな不信感が透けて見えた。
誘致から5年
万博の大阪誘致が決まったのは2018(平成30)年11月。パリで開かれた博覧会国際事務局(BIE)の総会で加盟国による投票が行われ、決選投票で日本がロシアを破った。
「これまでの万博の常識を打ち破る」と、パリの会見場で抱負を語ったのは当時の松井一郎府知事。その傍らに大阪市長だった吉村氏もいた。
そもそも2度目の万博誘致は、地域政党「大阪維新の会」の創設メンバーである松井氏と橋下徹氏が、1970年万博時代の「輝ける大阪」を再興させようと一計を巡らせたことに始まる。維新と蜜月関係にあった首相の安倍晋三氏もこれに共鳴し、万博誘致は国策となった。
もっとも現代における5年という歳月は、テクノロジーや価値観を根本から変えるのに十分な長さだ。新型コロナウイルスのパンデミック、誘致のライバルだったロシアのウクライナ侵略、世界的な物価高を経て、パリの地に満ちていた万博の高揚感は霧消した。安倍氏は銃撃事件で非業の死を遂げ、松井氏は政界を去った。
68%が「不要」
共同通信が今年11月に行った全国電話世論調査によれば「万博不要」は68・6%。度重なるコストの増額のみならず、海外パビリオンの建設遅滞やメキシコ、ロシアの撤退などネガティブなトピックばかりが、全て報道先行で発信される。
「理念とマネジメントの不足が招いた迷走だ。万博はもはや最新技術の展示場ではない」。万博に詳しい京都大大学院法学研究科の中西寛教授(国際政治)はそう指摘する。
さらに「建設費の増額も早くから見通せたこと。万博協会は一時的な腰掛けの寄り合い所帯で、取りまとめのリーダーがいないから対応が遅れる」と手厳しい。
一昨年の東京五輪でもコストの上振れが繰り返され、さらに汚職事件の舞台にまでなってしまった。「税金を投入して大型イベントをやることへの忌避感が今の国民には根強くある」(中西氏)
来春には万博まであと1年のカウントダウンが迫る。国が威信をかけて誘致した万博の中止・撤退はあり得ない。吉村氏は今秋ごろから「積極的な情報公開」を盛んに訴えるようになった。市民に判断材料を提供し、丁寧に説明するという地道なプロセスしか忌避感払拭の道はない。(五十嵐一)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする