“ジェンダー平等”に取り組む佳子さまが行きつく“自己矛盾”「皇室には男女の差別が厳然としてある」

2023年12月1日に22歳となられた愛子さま、12月29日に29歳となった佳子さま。そして、小室圭さんと結婚しニューヨークで暮らす小室眞子さん。また、還暦を迎えた雅子さまと、SNS等でバッシングを受ける秋篠宮家を支える紀子さま。家制度と自立のはざまで、天皇制のゆがみを受け止めてきたのはそんな「女性皇族たち」だったと識者は言う。大久保和夫さん、矢部万紀子さん、河西秀哉さん、山口真由さんによる「皇室の母娘問題」座談会の一部を『 週刊文春WOMAN2024創刊5周年記念号 』より一部編集・抜粋の上、紹介する。
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皇室の母娘関係は世代も関係するのか
矢部 皇室の「娘」といえば天皇家の愛子さま、秋篠宮家の佳子さまです。ただ、秋篠宮家に、バッシングが集中しています。
山口 両家が対照的存在になっていますよね。秋篠宮家の親子関係のあれこれは、まるで現代の家族の生き写しのようです。一方、天皇家は昔から誰もが頭に浮かべる「天皇家」を体現しているよう。そして私が思うのは、世代による価値観の違いです。
佳子さまは12月29日に29歳となるミレニアル世代、12月1日に22歳となられた愛子さまはZ世代。私もそうですが、ミレニアル世代は「自立」を強く志向しました。その点、Z世代は反抗期もなく、親ともずっと仲がいいんです。皇室の母娘関係を考えるとき、世代も関係あると思われますか?
河西 大学の教員になって20年近くになりますが、学生の気質の変化は実感しています。佳子さま世代の学生は反抗的な面もありましたが、愛子さま世代の学生はすごく柔らかい。皇室は時代を反映します。佳子さまは自分の人生を模索する姿、愛子さまは家族との関係、それぞれ前に出ているものが違いますよね。
公務を引き受ける“決意”
山口 11月、佳子さまがペルーに行かれましたが、私には大逆転でした。というのも、眞子さんもペルーに行かれましたよね。
矢部 2019年、ペルーとボリビアに行かれました。
山口 その時、こんな厳しい日程をこなせるのは眞子さましかいない、お姉さまだし、抜群の安定感があるしと思いました。その頃の佳子さまはいつも所在なさそうで、どこか遠くを見ているような感じでしたから。それが今回はペルーの手話も披露されたりと大活躍で、この方はきっと公務というものを引き受ける、その決意をされたのだと思いました。
大久保 佳子さまは皇族としての役割、公務に対する思いというものをきっちりと持つようになったのではないでしょうか。
矢部 ジェンダー平等についての発言を積極的にされていますよね。
最近の佳子さまに感じる、うちに秘めた熱いパッション
大久保 9月の東北大学でのスピーチは素晴らしいものでした。日本で初めて女子大学生が誕生して110年の記念式典で、佳子さまは仙台市に日帰りで行かれました。
矢部 鳥取で新型コロナウイルスの罹患がわかってから、初めての外出でした。
大久保 日本の大学生に占める女性の割合が理工系で低いこと、女性の数学や科学のリテラシーは男性に比べ決して低くないことを統計的に説明したうえで、「せっかくの高い能力が十分に生かされていないことは、残念です」と述べられました。「残念」という感情を表す言葉を皇族が使うのはあまりないことで、佳子さまのジェンダー問題に対する強い思いを感じました。
矢部 全文を拝見しましたが、とても熱がこもった文章でウルッときました。
大久保 なぜそうなったかと考えると、やはり姉の眞子さんの結婚のことが大きかったと思います。なぜ姉が、こんなにもバッシングに遭わなくてはならないのか。その思いがずっとあったのではないでしょうか。眞子さんが結婚した日、取材陣の前でハグをされました。よくよく感情があふれてのことだと思います。
山口 孤立無援の中、姉妹だけが分かり合って、助け合ってきたのですよね。そういう姉がいなくなり、とてもつらかったと思います。いけない、なんだか涙が出てきちゃった。私はその時、佳子さまもすぐに結婚して皇室を出ていかれるだろうと思いました。でも、むしろ運命を引き受けて、姉のような女性の立場を変える。そういうメッセージを発しようと決意されたのですね。
大久保 うちに秘めた熱いパッションのようなものを、最近の佳子さまに感じます。
ジェンダーを語ることの自己矛盾
河西 公務を重ねるうちにライフワークを見つけたという面もあると思います。大学を卒業されてしばらくは模索が続いていたのが、徐々に自分の役割が見えてきたのだと思うんです。ジェンダーの問題が社会にあり、自分が発言すれば反響が起こり、考えてくれる人も出てくる。皇族の公務というのは、それが呼び水となって事態を動かす力があります。そのことに気づき、一生懸命取り組んでいると感じます。同時に大丈夫かなと思ってしまったりもするのですが。
矢部 ジェンダー問題を突き詰めると、女性皇族に人権がないことに行き着く。そういうことですよね。
大久保 皇室には制度的に男女の差別が厳然としてある。女性が天皇になれないだけでなく、さまざまな差別が存在する。でも佳子さまのお気持ちを忖度するなら、そういうことは取りあえず置いておき、皇族としての自分の立場を大いに活かしていきたい。そういう思いで活動されているのではないでしょうか。ご本人が制度に触れると、それは政治問題になるわけですから。
「家」と葛藤する佳子さま
河西 佳子さまは、今の社会をよりよくしていきたい気持ちが強い方ですよね。昨今の若者の特性でもあると、学生を見ていても思います。だから社会の状況を鑑みて、世代の声としてジェンダー平等を語っている。
一方で大久保さんのご指摘通り、彼女が生きているのはジェンダー平等からはほど遠い世界です。そういう制度の中にいながらジェンダー平等を語り続ければ、やがて自己矛盾に陥ることになります。それも先ほど言った「大丈夫か」の意味だったりします。
山口 佳子さま推しの女性の気持ちがだんだんわかってきました。佳子さまは十字架にはりつけにされたキリストのような存在なのですね。あのように現代的な女性が、いかんともしがたい「家」というものの縛りを背負い、葛藤している。
今を生きる私たちは、制度的には「家」というものを完全に乗り越えたけれど、気持ちの上ではまだ少し縛りを感じてもいる。だからこそ、「家」と葛藤する佳子さまの不自由さを尊く思う。気持ち、すごくわかります。
※雅子さまが見せる親としての愛すべきエゴ、紀子さまの娘への気遣い、「国民の娘」に徹する愛子さま、美智子さまに寄り添う黒田清子さん……など、「皇室の母娘問題」座談会の全文は『 週刊文春WOMAN 創刊5周年記念号 』でお読みいただけます。
大久保和夫 おおくぼかずお/ジャーナリスト。1947年生まれ。毎日新聞で30年近くにわたり皇室取材を重ねる。
矢部万紀子 やべまきこ/コラムニスト。1961年生まれ。「アエラ」編集長代理などを経て2011年朝日新聞を退社。
山口真由 やまぐちまゆ/信州大学特任教授。1983年生まれ。ハーバード大学ロースクールで家族法を研究。
河西秀哉 かわにしひでや/名古屋大学大学院人文学研究科准教授。1977年生まれ。著書に『平成の天皇と戦後日本』。
text: Makiko Yabe photographs: Hirofumi Kamaya hair & make-up: Sakura Ozawa (MAKEUPBOX/Yamaguchi)
(矢部 万紀子/週刊文春WOMAN 2024創刊5周年記念号)

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