輪島の完全孤立集落「情報ないんです」 徒歩で訪ねた記者が見た現実

被災者たちに何度も言われた。「外でいったい何が起こってるんですか?」「ここまで報道機関が来たのは初めてだよ」
能登半島を激しく揺さぶり、住民を混乱に突き落とした元日の大地震。山がちな半島では孤立集落の解消が遅れ、取り残された住民は苦しい生活に耐えてきた。中でも石川県輪島市の北岸にある西保(にしほ)地区は、徒歩でも行き来するのが極めて困難な孤立集落が点在。11日になってようやく空からの救出活動が本格化した。本紙記者2人は10日、被災地に支援物資を主に徒歩で届けている男性に道案内を頼み、西保地区に入った。
土砂崩れ、獣道を分け入ると…
輪島市役所から西へ延びる県道などを車で4キロほど進み、光浦(ひかりうら)漁港を過ぎると土砂崩れで通行止め。ここで車を降り、土砂を乗り越えたり、男性が地元の人に借りた軽トラックに乗り換えたりして西を目指した。鵜入(うにゅう)の集落の辺りからは道路が海へ向かって崩れ落ちた箇所があるため山中へ分け入った。かつて使われていたという獣道。ぬかるんでいるうえ、ロープをつかまないと上り下りできない急傾斜もあった。
正午ごろにまず下山町に着いた。車庫で4人が身を寄せ合っている。漁師の谷内友三さん(63)は2日になって外部とつながる道路が寸断していることに気づいた。自宅は目立った被害はなかったが裏山が崩れるかもしれず、日中は車庫へ、冷え込みが厳しい夜は軽ワゴン車の中へ。ただガソリンは「あと数日で尽きるかも」といい、10分だけエンジンをかけて車内を暖め、以後は毛布にくるまって眠る。
近所の建設業、浦本晃さん(72)は「大丈夫、不安はない」と気丈だったが、周囲の道路の破壊ぶりは想像を絶し、故郷を捨てざるを得ない可能性も考えているようだった。「生まれてからずっとここに住んでる。親しい人たちと別れないといけないと思ったら……」と言葉を詰まらせた。
朝ドラ「まれ」ロケ地も被災
さらに約1時間歩き、市役所から12キロほど離れた大沢(おおざわ)町に入った。NHK連続テレビ小説「まれ」(2015年)のロケ地となった漁村だ。船で救助できないのかと思ったが、防衛省統合幕僚監部によると漁港には小さな船しか入れず、沖合で大型船に移ってもらうのが難しいという。それ以前に、漁港の地盤は激しく隆起しており、船をつけられるようには見えなかった。
住民が避難生活を送る公民館に足を踏み入れると住民がわらわらと駆け寄ってきた。口々に「情報がないんです。新聞を読みたい」。公民館に勤務する中嶋恵美子さん(65)によると大沢町には従来、60世帯100人ほどが暮らす。元日は帰省者が多く150人以上いたとみられる。訪ねた時点では30人ほどがヘリで避難済みだった。
揺れの直後、住民たちは津波を恐れて「高台へ!」と大声をかけ合った。食料を積んだ自衛隊のヘリが時折、公民館の隣の広場に降りるようになったのは5日から。それまで中嶋さんたちは住民たちが持ち寄った材料でみんなのご飯を作り続けた。
9日までネットつながらず
断水、停電が続く大沢町では9日になってWi―Fi(ワイファイ)がつながるようになった。そこで初めて、インターネットのニュースで家屋倒壊や土砂崩れ、津波など広範囲での深刻な被害を知り、多くの人がショックを受けた。帰省中だった看護師の長手いつかさん(33)は「映像を見て、輪島中心部でこんなにひどい火災があったんだ、って……。つらいのは私たちだけじゃなかったんですね」。
取材中には神奈川県警のヘリが降りてきた。「迎えが来た?」「乗れるの?」と期待する老若男女20人ほどが集まってくる。この時はドローンで薬を運べるかどうかの調査のための来訪だった。帰省中に孤立を余儀なくされた人たちを中心に約40人がすぐに脱出したいと順番を待っていた。
「復興せず廃村かも」募る不安
一方、長手富美子さん(82)は「復興しなくて廃村になるんじゃないかってみんなおびえてる。生まれてずっと住んでいる人ばかり。餓死してでも大沢に残りたいって言ってる人がたくさんいるよ。私も出たくない」と目を赤く腫らしながら言った。
受験生の姿もあった。田中朝陽(あさひ)さん(15)はスクールバスで中心部の市立輪島中に通学していた。父裕之さん(55)は「転校しなければならないのだろうか……」と案じる。
大沢町からの帰途、やはり孤立している赤崎町の旧西保小学校の避難所を訪ねた。この時点では約50人。帰省中の幼い子供や中高生たちもおり、中谷内稔さん(71)によると、早く脱出してもらうために4日前からヘリを要請しているがまだ来ないということだった。
県によると10日時点で西保地区で孤立していたのは814人。11日以降、被災地の外へ2次避難してもらう取り組みが急速に進んでいる。【松本紫帆、北山夏帆】

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