現職の自民党議員の逮捕者を出した自民党・裏金問題。東京地検特捜部は今後、他の議員や、さらに派閥側の責任はないのか切り込んでいくとも見られている。この裾野が見えない政治と金の事件、全ての発端はある新聞のスクープだった。大新聞もテレビも週刊誌も、まだ何も触れていなかった2022年11月6日。タブロイド判の見開き2面を使ってその見出しは躍った…。「パー券収入“脱法的隠ぺい2500万円分”不記載」
報じたのは日本共産党の機関紙『しんぶん赤旗日曜版』だ。『赤旗』の名は多くの人が聞いたことがあるだろうが、詳しく知る人は多くない。取材した。
「コロナになって飲食がなくなった。でも同じ2万円…」
渋谷区千駄ヶ谷。日本共産党の機関紙『しんぶん赤旗』の編集局を訪ねた。裏金問題を1年以上前から取材し、明るみに出したメディアだ。その日曜版の編集長にそもそも誰も気にかけなかった政治資金パーティーになぜ目を付けたのか聞いた。
『しんぶん赤旗日曜版』山本豊彦 編集長「パーティーはご存じのように(昔から)飲食を出してやっていた。それがコロナになって飲食がなくなった。でも同じ2万円というのは対価性から考えてあり得ない。ということでパーティー問題をずっと取材した…」
飲食があってもなくても2万円の不思議。素朴な疑問に始まった取材の中で記者歴10年の笹川記者がある疑問を抱いた。電気事業者が作る団体の収支報告書を見た時、安倍派と麻生派のパーティー券を購入した記録があったが横に3人の議員の名前が添えられていた。そこには一人当たりは20万円以下で購入だが安倍派の議員3人の合計は26万円。麻生派の3人の合計は40万円だった。
本来、同一の団体から20万円を超えるパーティー券を購入してもらった場合、派閥側の収支報告書には記載義務が生じる。安倍派と麻生派の政治資金収支報告書を見てみると…。
『しんぶん赤旗日曜版』山本豊彦 編集長「大口は記載しなきゃいけないはずなのに、安倍派と麻生派の報告書を見たら書いてなかった…」
実際に政治資金収支報告書を調べてスクープのきっかけを作った記者は…
スクープのきっかけをつかんだ笹川神由記者「直接(パーティー券を買った)団体にも聞いたところ『複数の方から購入してください』という依頼があるので、それぞれ分けて支払ったんですよって…」
二つの派閥が同様の手口でパー券をさばき、記載しないのは組織的な行為ではないかと調査を続けた。そして、あのスクープにつながった。
「圧倒的に機関紙の収益で共産党は成り立っている」
『しんぶん赤旗日曜版』山本豊彦 編集長「(―――何人のチームで取材してますか?)正確な数は企業秘密。デスクと記者、少数精鋭。本当に少ないです…」
限られたスタッフと予算で裏金問題以外にも安倍元総理の“桜を見る会疑惑”など数々のスクープを発信してきた赤旗日曜版。共産党によれば2020年の実績で日刊紙と日曜版、計100万部を誇るという。機関紙とはいえその内容は共産党のPRなどではなく政治・社会・国際・経済・スポーツ・文化・くらしと一般紙と変わらない。中でも充実しているのが意外にも…。
『しんぶん赤旗日曜版』山本豊彦 編集長「うちは芸能を一生懸命やっていて…。芸能強いよ。羽生(善治)さんの特集とか…。今年の新春は…」
と言って開いた紙面には、草彅剛、小芝風花、藤原竜也が特集されていた。
『しんぶん赤旗日曜版』山本豊彦 編集長「1面は政治とか社会とか大きな問題やってるんですけど、購読者の関心はそれだけではない。うちの売りの一つは色々な旬の芸能人を出すこと。ただうちはその人のプライベートな問題は一切やらない。スキャンダルとか一切やらない。(中略~芸能を重視して購買数にこだわるわけとは?)圧倒的に機関紙の収益で共産党は成り立っている」
政党交付金を受け取らず、企業団体献金も受け取らない日本共産党だが、実は野党第一党の立憲民主党よりも収入は多い。自民党はダントツの249億円の収入。立憲民主党は92億円。これに対し日本共産党の収入は191億円。その内訳は…。
自民党、立憲民主党は収入の大半を占める65~75%が政党交付金だ。一方、共産党は、191億円の87.2%が『赤旗』などの事業収入だ。但し、新聞を発行するための事業支出もそれなりで、自由に使えるお金はそれほど多くないようだ。赤旗からの収入の他、党員からの手取り収入の1%と地方支部などへの個人献金などで年間80億を工面している日本共産党。しかし屋台骨の『しんぶん赤旗』の発行部数は、右肩下がりの状態だという。最盛期の1980年に355万部だった部数は、2020年には100万部と3分の1以下になっていて、それに伴って収益もこの20年で1000億円近く減っている。この現実をどうとらえているのだろうか。政党交付金をもらう気にはならないのだろうか?
日本共産党 小池晃 書記局長「政党交付金というのは国民が支持もしていない政党に強制的に献金させているわけですから、これは間違っていると…。発行部数が減っているのは事実ですから、党大会に向けて赤旗を読んでくれる人を何とか増やす努力を…」
厳しい現実だが、何とか目の覚めるスクープは続けていただきたい…。
(BS-TBS『報道1930』1月9日放送より)