ダブルケアは「現代日本の縮図」 立ちはだかる縦割り行政

少子高齢化に歯止めがかからない日本は、およそ3人に1人が65歳以上で超高齢社会に突入している。そこに介護を担う家族の晩婚・晩産化も加わり、育児と介護の負担がいっぺんに重なる「ダブルケア」が急速に広がる。あなたも近い将来、その重い負担を背負うかもしれないが、支援は行き届いていない。
ダブルケアは、社会構造の変化や課題を映す「現代日本の縮図」と言える。
国内では、介護が必要な高齢者が増え続けている。介護保険制度が始まった2000年度の要介護(要支援を含む)の認定者数は256万人だったが、21年度は690万人。この20年間で約3倍になった。
全ての団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる25年以降、この数はさらに膨らむことが予想される。
晩婚・晩産化もダブルケアが広がる背景になっている。厚生労働省によると、1975年の女性の初婚年齢は平均24・7歳で、第1子出産年齢の平均は25・7歳だった。これが22年にはそれぞれ29・7歳、30・9歳と5歳ほど上がった。
生活スタイルの多様化に伴って育児を終えたら介護という流れが崩れ、子どもが幼いうちに育児と介護をいっぺんに抱える人が増えているというわけだ。
ダブルケアは突然始まるケースが多いのも特徴になる。子育ては妊娠や出産を経て心の準備期間がある一方、介護は家族の体調急変で急に直面することが少なくない。
国は16年、今回と同じように就業構造基本調査を基にダブルケアの推計人口を初めて調査し、その重い負担が女性に集中している実態を公表した。
「女性活躍の推進」を掲げた当時の安倍晋三政権は、ダブルケアを重要な政策課題の一つと位置付けたが、肉体面や精神面、経済面の負担がのしかかる「三重苦」に対応する国主導の十分な支援メニューはない。国の調査も8年前の1度しか実施されていない。
一方、堺市は16年から専用の相談窓口を開設したほか、ダブルケア世帯を対象に高齢者施設や保育所の利用制限を緩和する。ただ、自治体の取り組みも広がっているわけではない。
支援が進まない「壁」と指摘されているのが縦割り行政の弊害だ。育児と介護の福祉サービスが別々に考えられているため、双方の課題を複合的に解決する視点が欠け、窓口も分かれている。ダブルケアに悩む人たちが相談しようとしてもたらい回しにされ、結果的に孤立感を深める要因にもなっているという。
ダブルケアの問題に詳しい国民民主党の伊藤孝恵参院議員は「こども家庭庁の創設で育児部門が厚労省から切り離され、新たな縦割りが生まれてしまった」と訴える。
武蔵野大の渡辺浩文教授(社会福祉学)は「ダブルケアは貧困や孤立、介護離職、ジェンダー格差を含めて現代社会のさまざまな課題も内包している。横断的な体制で複合的な課題を整理し、きめ細かい支援を届ける必要がある」と話す。【斉藤朋恵、井手千夏】

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