「ムショで生活した方がマシ」“前科11犯の70代”に会ってわかった「高齢犯罪者の更生」がなかなか進まない理由

「シャバにもどっても、何か不便なことがあれば、ムショで生活していた方がマシだって思って、わざとつまらない犯罪をしてしまうんだ」
高齢の受刑者が出所後も犯罪を繰り返し、すぐに刑務所に戻ってしまう理由とは……? ノンフィクション作家・石井光太氏の新刊『 無縁老人~高齢者福祉の最前線~ 』(潮出版社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
再犯者のたどり着く先
鳥取県の山陰道の鳥取インターを降りると、黄金色の稲穂が揺れる田園風景が広がっている。田んぼの中の一本道を車で進んでいくと、牧歌的な光景には似つかわしくない、コンクリートの塀に囲まれた要塞のような建物が現れる。正門には日の丸の旗がはためき、制服を着た警備員が厳しい顔をして立っている。
ここは鳥取刑務所。全国に存在する60を超える刑務所のうちの一つだ。
現在、刑務所が抱えている問題に、受刑者の高齢化がある。建前の上では、刑務所は罪を犯した者を一定期間収容して反省を促し、出所後に真っ当な道に進ませるための施設である。
だが、現実的にはそうはなっていない。受刑者の社会復帰は容易ではなく、出所したところで2人に1人は再犯を起こしている。特に前科のある高齢者は就労が困難であるため、違法行為をくり返す率が高い。
かつて私が取材した前科11犯の70代の受刑者はこう語っていた。
「社会復帰しても金も友達もなく、何をやるにしてもすごく大変なんだ。その点、刑務所にいれば医療も受けられるし、ご飯も無料で食べさせてもらえる。だからシャバにもどっても、何か不便なことがあれば、ムショで生活していた方がマシだって思って、わざとつまらない犯罪をしてしまうんだ」
一部の受刑者にとって、刑務所は社会で暮らすより居心地のいい場所になっているのだ。
2017年12月、国はこうした現状を受けて「再犯防止推進計画」をまとめた。受刑者たちが、再び罪を犯さないように居場所を見つけたり、福祉につなげたりする仕組みを作ったのだ。
そんな中、高齢者を多く収容する鳥取刑務所のある鳥取県ではどのような取り組みが行われているのか。塀の中に足を踏み入れてみることにした。
日本全国に数ある刑務所は、それぞれ特徴を有している。重大事件を起こした受刑者が主に集められる刑務所、心身の治療が必要な受刑者が集められる刑務所、犯罪傾向が軽く更生が期待される受刑者が集められる刑務所などだ。
鳥取刑務所は、実刑期が10年未満で、犯罪傾向の進んでいる男性を収容することになっている。端的に言えば、犯罪の内容は窃盗などで軽いが、長期間にわたって何度もそれをくり返す受刑者が多いということである。
年々増加する「高齢者の受刑者」
鳥取刑務所に赴いた私に話を聞かせてくれたのは、庶務課長の梶山勉氏(仮名、52歳)だ。梶山氏は受刑者の特徴について次のように語る。
「うちは鳥取県にある唯一の刑務所ですが、受刑者の出身地でいえば、県外の方が多数なんです。大阪、兵庫、岡山といった地域で罪を犯してこちらに送られてくる。施設は古いですし、冬には雪が降りつもって気温がかなり下がるので、高齢の受刑者たちの身心にはかなりこたえるようで、『鳥取刑務所はつらい』という声をよく聞きます。それでも、累犯者は性懲りもなく罪を犯しては何度もこの刑務所にもどってくるのです」
刑務所の仕組みを簡単に説明しておこう。裁判で刑が確定し、鳥取刑務所に受刑者が送られてくると、まず「刑執行開始時調査」にかけられ、2週間にわたって犯罪の動機や本人の特性などが細かく調べられる。その後、「処遇審査会」で収監中の指導内容や作業内容(木工、洋裁、炊事など)が決められ、受刑生活がスタートするのだ。
先述のように刑期は10年未満の者が大半だが、刑期を満了まで務める者と、仮釈放で刑期を少し残して出所できる者とに分かれる。
仮釈放が出るかどうかは、刑務所内での生活態度が評価の対象となる。刑務所で規則を守って正しい生活をし、再犯の可能性が低いとされた者たちには仮釈放が与えられる。だが、規則を何度も破ったり、出所後の引受人がいなかったり、暴力団に属していたりする人の場合は、満期まで務めなければならない。鳥取刑務所の出所者は、おおよそ半数くらいが仮釈放の対象になっているという。
梶山氏は話す。
「全国的に、受刑者の数は減ってきています。ピークは2006年でした。鳥取刑務所でも、当時の定員705人に対して760人くらいの受刑者がいて、入りきらないような状況だったんです。それ以降は受刑者の人数が徐々に減っていって、今は380人ほどになった。でも、高齢者の受刑者の割合は、それに反比例するように増えていて、年間の受刑者の1割強が65歳以上になっています」
65歳以上の高齢者は、バブルの恩恵を受けてきた世代だ。若い頃は良い生活をしていたが、バブル崩壊後はリストラに遭うなどして生活苦に陥り、その一部が窃盗や無銭飲食などといった犯罪に走った。2006年は、そうした人たちの犯罪がピークに達した時期といえる。
受刑者は刑期を終えて社会復帰したところで、安定した職業に就けるわけではない。差別にさらされたり、親族や友人と疎遠になっていたりすることもある。そのため自暴自棄になって再び犯罪に手を染める。これを3回以上くり返すことを「累犯」と呼ぶが、現在増えているのは高齢者の累犯なのだ。
「うちの受刑者の9割が累犯です」
梶山氏は言う。
「現在、うちの受刑者の9割が累犯です。1人平均4.7回入所していて、一番多いのは19回になります。私は転勤を挟んで合計10年以上ここで勤務していますから、転勤前の十数年前から何度も出たり入ったりしている受刑者もたくさんいます」
刑期の平均が3年半なので、単純計算で累犯者1人あたり16年以上は刑務所で過ごしている計算になる。彼らの犯した罪を示しておこう。
覚醒剤 34.9% 窃盗 32% 詐欺 7% 交通法 4.1% 傷害 3.4% 強盗 2.8% その他 15.8%
ここで言う詐欺とは、特殊詐欺や投資詐欺のような高度なスキルを必要とするものではなく、レストランや居酒屋などでの無銭飲食がほとんどだ。無銭飲食は、当初から料金を払う意思もなく、食事をだまし取ったということで詐欺罪が適用される。
高齢累犯者は、どんな人生を送り、何を思って受刑生活を送っているのか。実際に、受刑者に話を聞いてみることにした。
〈 「全部ギャンブルのせいですよ」“前科15犯”になるまでドロボウをやめられなかった67歳男の不幸「次にここを出るときは70歳」 〉へ続く
(石井 光太/Webオリジナル(外部転載))

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする