カイロス打ち上げ失敗の背景「経験不足の一言に尽きる」 失敗から多くを学び未来へ

日本の宇宙ビジネスを民間主導に転換させる先駆けとして期待を集めていた、宇宙事業会社スペースワン(東京都港区)の小型固体燃料ロケット「カイロス」初号機の打ち上げは13日、発射直後に爆発し失敗した。5回の打ち上げ延期を乗り越え、準備万端だったはずの初号機に、いったい何が起きたのか。
「調査中でお答えできない」
「カイロスは自律安全飛行システムを導入しており、それが飛行中断処置を行った。それ以上のことは現在調査中で、お答えできない」。スペースワンの阿部耕三執行役員は13日に和歌山県那智勝浦町で開いた記者会見で、こう説明した。
同社によると、初号機は13日午前11時1分12秒に同県串本町のスペースポート紀伊から打ち上げられたが、約5秒後、第1段エンジンが燃焼中の段階で、自律安全飛行システムが働いた。
このシステムは機体に搭載され、①機体の位置や姿勢②コンピューターやエンジンなど機体を構成する機器や装置③自律安全飛行システム自体-のいずれかに異常を検知すると、自動的に飛行中断処置を判断。安全な場所で機体を爆破し、機体落下による被害を防ぐ。
ロケットの安全な飛行が困難と判断された際、地上から信号を送り機体を爆破する「指令破壊」と目的は同じだが、地上管制室の判断が不要である点が異なる。
システムがどのような異常を検知したのかは現時点では不明だが、同社は13日に対策本部を立ち上げ、打ち上げから爆破までの約5秒間の飛行データを解析し、原因究明を急ぐとしている。
失敗に終わった背景について、豊田正和社長は記者会見で「対策本部で明確にしていきたい」と語った。だが、国の宇宙開発事業の関係者は「経験不足の一言に尽きるだろう」と指摘する。
経験と知見の蓄積
国の基幹ロケット打ち上げは、長年にわたる研究開発に裏打ちされた経験やノウハウ、人材に支えられている。それに比べ、スペースワンはまだベンチャー的な位置づけであり、なおかつロケット打ち上げは今回が初で、何の蓄積もない。
カイロス計画には、国の基幹ロケット開発に関わってきた大企業も参加しているが、それだけでは十分ではない。この関係者は「機体制御や指令系統、外部との連携や情報発信など、幅広い要素を適切に統合できる経験と知見の蓄積が必要だ」という。
5回目の打ち上げ延期理由となった、警戒区域内への船舶の侵入についても「周辺を航行する船舶へのアピール方法をよく理解していない経験不足の表れ」と明かす。
ロケット打ち上げは、失敗から学び、それを糧として前に進んでいくものだ。だが、それは失敗してもいいということではない。今回の打ち上げ失敗から、できるかぎり多くのことを学び取り、未来へと進む姿勢が重要だ。(伊藤壽一郎)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする