経済好転で局面打開
岸田首相(自民党総裁)が注力する賃上げの成否は、首相の衆院解散戦略に影響を与えそうだ。首相は、6月の定額減税と合わせてデフレ脱却を確実にし、経済状況の好転を追い風に解散できる環境を整えたい考えとみられる。もっとも、与党内には局面転換に懐疑的な見方が多く、早期解散をけん制する声が目立つ。
「賃上げの機運と合わせ、6月には減税も用意するなど物価高に負けない可処分所得を実現する」
首相は13日の参院予算委員会集中審議の答弁でこう強調した。「賃上げが中小企業に広がっていくかが重要だ。政策を総動員して後押ししたい」とも語った。
首相が意気込むのは、国民生活に直結する分野で成果を出せば、政府・自民党への逆風を収めることにつながるとの期待からだ。首相は周辺に「今は国民の信頼回復を果たすことしか考えていない」と漏らすが、目算通りに政権浮揚を果たせれば、「解散の選択肢が視野に入る」(政府高官)とみている。
9月の任期満了に伴う党総裁選で再選を期す首相はかねて、衆院選勝利の勢いで再選を果たす戦略を描いていた。内閣支持率が上昇基調に転じれば、このシナリオに再び現実味を持たせることが可能になり、6月の国会会期末の解散が有力になり得る。
ただ、与党の空気は対照的だ。自民派閥の政治資金規正法違反事件への批判がやむ兆しはなく、不祥事も相次ぐ。株価高騰は支持率と連動せず、賃上げが政権の反転攻勢につながる展望を描けないためだ。
自民の茂木幹事長は13日、東京都内での会合で「今は党として信頼回復に最優先で取り組む」とあいさつし、早期解散に慎重な立場を示した。茂木氏は、早期解散を懸念する若手・中堅議員らに「大幅な議席減が予想されるなら、首相に解散はさせない」と語っている。党重鎮は「総裁選前の解散はあり得ない」と指摘する。
公明党は公然とブレーキをかけている。山口代表は12日、記者団に「政治不信が極めて強い。信頼を取り戻す流れを作り出さない限り解散すべきではない」と訴えた。石井幹事長は10日のBSテレ東の番組で総裁選後の解散を主張し、「総裁選で選ばれた総裁は非常に支持率が高くなる」と述べた。自民内では「暗に新首相による解散を求めた踏み込んだ発言だ」との受け止めが出た。
こうした情勢も考慮し、首相周辺からは「支持率が回復すれば、総裁選での再選を見込める。解散は総裁選後でいい」との声も漏れる。与党内では、首相の真意を読めないとの疑心暗鬼が広がっており、経済情勢と首相の判断を注視する状況が続きそうだ。