猛威振るう「ロマンス詐欺」、被害者を覚醒剤の「運び屋」にするケースも 深層 歌舞伎町

東京・歌舞伎町を拠点とするナイジェリア人による覚醒剤密輸グループのトップが今月、警視庁薬物銃器対策課などに逮捕された。グループは交流サイト(SNS)などを通じて恋愛感情を抱かせて利用する「ロマンス詐欺」の手口を応用。だました女性を「運び屋」として使っていた。ロマンス詐欺は近年、投資名目などで現金を詐取される被害が急増しており、警察当局は注意を呼び掛けている。
1年かけ恋愛感情を…
覚醒剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で逮捕されたのはナイジェリア国籍のエボ・ジェレマイヤ容疑者(56)。共謀し令和4年3月、イスラエルから覚醒剤の入った郵便物2個を川崎市の30代女性が勤務する会社事務所に発送し、密輸した疑いが持たれている。
女性は遅くとも3年ごろには、外国人利用者が多い通信アプリ「ワッツアップ」を通じて「フランス在住の黒人のデスモンド」と称する男と知り合い、英語でやりとりを始めていた。
捜査関係者によると、デスモンドは恋愛感情を抱くようになった女性に「いずれ日本に行くから、いつか一緒に住もう」などと言い、「服を先に送るから友人に渡してほしい」と、荷物を送り付けていた。
これが覚醒剤だった。
女性は「荷物を歌舞伎町まで運んでほしい」との依頼は拒んだものの、受け取りに来た黒人男性に荷物を渡した。その後もデスモンドは「日本でアパレルの仕事をしたい」などの名目で、何度も荷物を送ってきていたという。
デスモンドが、本来の目的とみられる荷物の受け取りを女性に切り出すまでにかけた時間は約1年。捜査関係者は「長い時間をかけることで女性からの信用を積み上げていった」と分析する。
女性は4年6月、警視庁に覚醒剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で逮捕され、その後不起訴となって釈放された。
捜査関係者によると、エボ容疑者は歌舞伎町拠点のグループトップとして、警視庁が長年にわたり動向を追っていた「大物」。密輸された覚醒剤は暴力団関係者らに卸され、売人らへと渡っているとみられる。
「会わずにだます」急増
西アフリカのナイジェリアはロマンス詐欺の「本場」といわれ、SNSなどを通じて一度も会わないまま現金をだまし取る手口が主流だ。
だました相手を覚醒剤の運び屋として利用するのは珍しいが、ロマンス詐欺による現金詐取被害自体は拡大している。警察庁によると、昨年前半の被害は656件、71億3千万円だったが、後半は919件、106億円に急増。ある警察幹部は「今年もこのまま増加が続く可能性がある」と危機感をあらわにする。
ロマンス詐欺の被害者は男性は50~60代、女性は40~50代が半数以上を占める。被害者の男女比は女性52%、男性48%とほぼ半々で、男性でもだまされる人は多い。
また、被疑者が名乗った国籍は、中国や韓国など「東アジア系」が35・2%、「日本人(在外)」が17・8%、「東南アジア系」が12・1%。警察幹部は「被疑者の本当の国籍は不明だが、重要なのは『会えない』理由になること。外国人や海外在住の日本人を名乗るのはそのためだろう」と話す。
仲良くなると、結婚をちらつかせて「一緒に生活するためにお金を増やそう」などと投資に誘導する。被害の7割以上はこの形で、警察庁の担当者は「投資名目なら継続してカネを受け取ることができる」と分析する。
警察庁は今月5日、ロマンス詐欺と、被害の多いSNSを使った投資に勧誘する詐欺被害について各都道府県警に対し、対策を強化するよう通知した。担当者は「SNSの事業者に対策強化を依頼するほか、摘発や注意喚起の強化を進めていきたい」と話している。(橋本昌宗、外崎晃彦)

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