[能登半島地震 検証3か月]<中>
海底が約2メートル隆起し、水深が浅くなった石川県輪島市の輪島港では、船が出せない日々が続く。岸壁も盛り上がり、船は横付けできなくなった。仮桟橋の設置は少しずつ進むが、海底の掘削や被災した船約200隻の移動はまだ先だ。
「時間がかかっても生まれ育った輪島で漁師を続けたい。できることをして待つ」。3月27日、約1か月ぶりに港を訪れた男性(41)は、父から受け継いだ漁船の損傷状況を確認しつつ、決意を新たにした。
高校卒業後、祖父、父と同じ道を選び、刺し網漁やはえ縄漁で生計を立てた。元日の地震で妻と4人の子どもたち、輪島市内の自宅は無事だったが、船が津波で破損した。材料も船大工も不足し、すぐに修繕ができない。何より港が壊れたままでは漁に出られない。
収入がなくなり家族を養うために友人の建設会社で働き始めた。道路の補修やがれきの撤去を行うアルバイト生活は2か月半になり、「いつまで続くのか」と不安も感じるようになった。
石川県内69漁港のうち、被害に遭ったのが60漁港。水産庁が3月21日にまとめた最新の被害状況では、水揚げができない「使用不可」が20港、水揚げが一部できる「一部使用可」は28港に上った。21港は使用できるが、輪島、 珠洲 市の漁港の大半は「使用不可」だった。
県は地震による水産関係の被害額を1000億円と推計する。県内主要10港の水揚げ量では4分の1を輪島、珠洲市の3港で占め、輪島港の2022年度の漁獲高は約25億円で県内トップだ。県は奥能登を重要な漁場として位置づけており、馳浩知事は「漁業の復興がなければ、能登の復興はない」と語る。
立ちふさがるのが深刻な高齢化だ。農林水産省の18年の統計では、石川県の漁業就業者は2409人で10年で4割減った。輪島、珠洲市の就業者は計777人で4割強減少した。65歳以上の割合をみると、輪島市が約31%、珠洲市は約65%で、高齢化はさらに進んでいるとみられる。
ある漁協幹部は「やめるという漁師は周囲にいない。ただ、復興が長引けばわからない」と語る。輪島市の20歳代の漁師は土木会社への転職話があり、「漁師をやめるか迷っている」と打ち明けた。復旧作業が始まった港はほんの一握りで、「小さな港が復旧できなくても、再生した拠点港などに集約できればいい」と話す県漁協関係者もいる。
地元自治体や漁協は協議会を設け、3月25日に漁業再生に向けた議論を始めた。復興方針を打ち出す目標時期を「2024年度末まで」と決めた。1年後となる。被災した漁港を調査した金沢大の青木賢人准教授(地域防災)は「漁港をいつまでに再生させるのか。めどが立たないと、漁業者は続けるかの判断ができない。国が復興計画をはじめ将来を見通す情報を早く伝えることが重要だ」と指摘する。