※本稿は、平野薫『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
私は若い頃、オートバイで海外を放浪していたことがあり、これまで北米、南米、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、オセアニアなど様々な国を訪問しました。社会人になって頻度は減りましたが、今でも海外に行って異文化を体験するのは大好きです。
様々な国に行ってみて改めて日本の良さを感じることが多いのですが、その一つに治安の良さがあります。UNODC(国連薬物犯罪事務所)の統計によると日本の殺人発生率は10万人当たり0.23件と世界トップクラスの少なさとなっています。
そうは言っても、最近は凶悪な犯罪の報道を見ることも多く日本の治安は以前より悪化しているのではないか? と思う方もいるかもしれません。そのように疑問を持った際にはしっかり数字で事実を確認することが数字に強くなるコツです。特に最近ではスマホで簡単に気になった数字を調べることができるので、自分なりに仮説を立てたら気になる数字を調べてみましょう。
令和4年版の犯罪白書によると日本における刑法犯の件数は平成14年をピークに減少しており、現在も毎年減少しています。平成14年の件数が285万4061件に対して、令和3年は56万8104件となっており、実に5分の1まで激減しているのです。
高齢者をターゲットにしたいわゆる“振り込め詐欺”に代表されるような特殊詐欺も、警察や行政、金融機関の啓発活動のおかげで近年では減少傾向にあります。
さて、このように犯罪件数が減少した要因は一体何なのでしょうか?
警察の日頃の努力や、外国人の入国管理の厳格化により外国人の犯罪者が減少したということも大きいと思いますが、特に大きな要因として考えられるのは「防犯カメラ」の設置台数の増加です。
近年では繁華街や通学路など多くの場所に防犯カメラが設置され、犯人の検挙と犯罪の抑止に威力を発揮しています。
かつて“大阪名物ひったくり”と揶揄されるほどひったくりが多かった大阪ですが、防犯カメラの設置により激減しています。大阪府のひったくり認知件数のピークは2000年の1万973件でしたが、2022年には138件と約100分の1まで減少しています。
道路にも多くのカメラが設置されており、犯行後に車で逃走した際もカメラで追跡し犯人逮捕に至るケースが増えてきています。
全国の警察が2019年に逮捕などして検挙した刑法犯19万1191件(余罪を除く)のうち、防犯カメラなどの「画像」が容疑者特定の主なきっかけになったのは10.2%と職務質問(16.5%)に次ぐ実績を挙げています。
防犯カメラ先進国の中国では、日本の数十倍のカメラが設置されています。信号無視などの交通違反者を撮影した画像の顔写真と、当局が保有する市民の個人データを照らし合わせて本人を特定し、交差点にある大型モニター(交通違反者暴露台)に映し出し、名前や身分証番号の一部まで表示する仕組みが導入され、交通マナーが劇的に改善しているそうです。
かつては、繁華街にある防犯カメラを見て、酔っぱらった姿をカメラで監視されているなんて嫌だなとか、どんどん監視社会になってプライバシーが守られないなどネガティブな気持ちもありました。しかしこれだけ治安改善に寄与しているという現状を見ると、悪いことだけでもないですね。
1996年には男女とも9割近くで高校生の飲酒経験があったのに対して、2017年には3割程度まで減少しています。今の高校生は昔と比べてだいぶ健全になったのでしょうか。
考えてみるとかつて駅前やゲームセンターで見かけた不良少年の姿を見ることがほとんど無くなりました。私が中学生の時分は隣の中学で生徒がバイクで廊下を走ったとか、他の中学に殴り込みに行ったとか、大幅に誇張されている部分があるにせよ荒れた学校が多くたくさんの不良がいました。北関東に行くとたまに暴走族のような集団を見ることもありますが、どちらかというと自分世代に近い中年がバイクに跨っていることが多い気がします。
またかつて少年誌で必ず掲載されていたいわゆる“不良マンガ”もあまり見かけない気がしますね。少年犯罪についてニュースや報道で取り上げられることは現在もありますが、不良少年自体は減っているのでしょうか? 気になったので調べてみました。
平成19年には160万人近くいた不良少年の補導人員は令和3年には30万人余りと約5分の1にまで減少、人口比で見ても約4分の1まで減っています。ある意味で不良が希少種になってきていることが分かります。
不良が減った原因は何なのでしょうか? 不良が減った原因は4つあると思います。
まず1つ目は子供に対するきめ細かなフォローが増え、以前よりも落ちこぼれる子供が減ったことです。現在は少子化の影響で子供一人に対して見守る大人が増えましたし、学校においても相対的に教員数が増えてかつてよりきめ細かなフォロー体制ができています。不良になるきっかけの一つに勉強ができず落ちこぼれるということがありますが、昔より落ちこぼれることが減ったのではないかと思います。
2つ目としては暴力団が衰退したことがあるのではないでしょうか。暴力団、いわゆるヤクザは不良の就職先(?)の一つでもあり、憧れの対象であったと思います。その暴力団が暴力団対策法の施行により衰退し、ピークの1991年に9万人だった構成員(準構成員含む)も2022年末には2万2400人と3分の1以下に減っています。
3つ目は、インターネットの普及です。かつてはやることがなく、時間を持て余していた若者が街でたむろし、良からぬ行為に及んでいました。しかし現在はインターネットで気軽に映画を見たりゲームしたり、SNSでコミュニケーションを取ったりと自宅に居ても十分楽しめる環境が整っています。意味もなく集まるよりもインターネットを通じた娯楽に興じる方が遥かに楽しいという若者が増えたと思います。
4つ目は、不良のイメージが悪化したことです。最近では暴走族のことをネット上で珍走団と揶揄することがあります。福岡県警も“エッ! 暴走族? いいえ、珍走団です。”というポスターを作り、暴走族に対するネガティブキャンペーンをしていた時期がありました。どちらにしても奇抜な恰好をして人に迷惑をかけるという不良がダサイものとして認識され、女子にもモテなくなったことで不良になろうという若者が減ったと考えられます。
いずれにしても不良も暴力団も減り、街が平和になることは良いことですね。
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(小宮コンサルタンツ コンサルタントチームリーダー、エグゼクティブコンサルタント 平野 薫)