能登地震で太陽光発電施設19か所が破損や崩落、感電・発火の恐れ…被害の全容不明

能登半島地震で、太陽光発電施設が破損、崩落する事故が少なくとも19か所で起きていたことがわかった。国に報告があったのは16か所だが、読売新聞が航空写真を分析した結果、ほか3か所でも確認できた。破損したパネルは感電や発火の危険性がある。事業者が報告していないケースがほかにもあるとみられ、国は発生から3か月以上たった今も被害の全容を把握できていない。(平井宏一郎、上万俊弥)
「『ドーン』という音とともに揺れを感じ、家の外に出ると大量のパネルが住宅の前まで迫っていた」。元日、震度6強を観測した石川県穴水町由比ヶ丘地区。実家に帰省中だった女性(44)は振り返る。
斜面に数百平方メートルにわたって敷き詰められていた太陽光パネルが、地盤とともに崩落。町道を塞ぎ、撤去された2月中旬まで、車両が通れなくなった。
経済産業省などによると、このパネルは千葉県内の事業者が設置し、2022年に運転を開始した。しかし、事業者は取材に「直後に転売したので、今はわからない。当時は土砂崩れのリスクは考えていなかった」とし、今の事業者は連絡が取れなかった。
町が撤去したパネルを保管しているが、町も事業者とはまだ連絡が取れていないという。
太陽光発電施設の事業者は、電気事業法に基づき、パネルの損壊や敷地外への流出、火災などがあれば、把握から30日以内に経産省に詳細を報告する義務があり、違反すれば罰則もある。
同省の資料によると、石川県内の能登地域(12市町)には、太陽光発電施設が小規模なものも含めて約1200か所ある。3月21日時点で七尾、能登、穴水、志賀、宝達志水の5市町の計16か所の事業者から被害の詳細な報告があったという。
読売新聞は、金沢工業大の徳永光晴教授(地理空間情報工学)の監修を受け、国土地理院が公表している地震発生後の被災地の航空写真を分析した。その結果、ほかに少なくとも3か所の施設で被害が確認できた。道路を塞いだ穴水町の施設のほか、珠洲、七尾両市でそれぞれ1か所あった。軽微で報告義務がないとみられる被害を含めると、さらに数か所確認できた。
珠洲市宝立町では、スーパーの屋根に設置されていた200平方メートルほどのパネルが建物ごと倒壊。今もそのまま残されている。
太陽光パネルは破損後も光が当たれば発電し、感電や発火の恐れがある。19年には、千葉県内で台風によりパネルなどが破損し、火災になったケースがあった。
珠洲市で倒壊したスーパーを経営する男性(62)は「発火の恐れがあるとは知らなかった。市に建物の解体を申請しているが、いつになるかはわからない」と困惑した様子で話した。
経産省によると、地震による太陽光発電施設の被害報告は、16年の熊本地震で1か所、18年の北海道 胆振 東部地震で3か所あった。今回は、広範囲に地盤の亀裂や隆起が起こり、被害が拡大したとみられる。
経産省は3月、事業者が被害を確認できなかったり、報告義務を認識していなかったりするケースがあるとみて、事業者に被害の確認を求める書面を郵送した。
太陽光発電施設を巡っては、18年の西日本豪雨でも崩落し、神戸市で新幹線が運休。その後も豪雨や台風による事故が相次いだ。経産省は22年度、大雨で土砂崩れなどの恐れがある「土砂災害警戒区域」にある280施設に立ち入り検査を実施。うち25施設で敷地外への土砂流出を確認し、事業者に対策を指導していた。
しかし、土砂災害警戒区域は地震を想定していない。今回、19か所のうち、少なくとも2か所で敷地外への流出が確認されたが、いずれも警戒区域外にあった。
徳永教授は「太陽光発電施設は斜面に設置されているケースが多く、地震による崩落リスクがあることが改めて明らかになった。自治体は国への届け出情報などを基に施設の設置状況を把握し、崩落して住宅や道路に被害が及ぶ可能性がある場所については対策を促すことを検討してもいいのではないか」としている。

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