全国各地で相次ぐ太陽光発電施設を狙った銅製ケーブルの窃盗被害で、茨城の被害件数が昨年最多だったことが読売新聞の調査で明らかになった。県内で1675件発生し、前年比約2・6倍に急増。県警が昨年摘発した容疑者のうち、大半は東南アジア系の外国人で、公判などから金に困った不法滞在者らが犯行を繰り返す実態が浮かび上がった。
「1回で10万円くらいもらった」。昨夏に水戸地裁で開かれた公判で、窃盗罪などに問われたカンボジア国籍の30歳代の男はうなだれながら答えた。男は技能実習生として2018年に来日。職場でのいじめを理由に実習先を逃げ出し、不法滞在となって金に困窮していたところ、知人の男から太陽光発電施設でのケーブル盗に誘われた。
知人の男は窃盗集団のリーダー格で、県警は昨年までにこのグループの5人を摘発した。県警や公判などによると、知人の男は群馬県にあるカンボジア人の窃盗集団に加わり、盗みを重ねた後、他の仲間を誘って新たなグループを結成。茨城や栃木など5県で少なくとも約80件の窃盗を繰り返したとされる。
盗まれたケーブルは計約81キロ・メートルに及び、被害総額は計2億7000万円に上る。ケーブルを売って代金を分配し、覚醒剤の購入費などに充てていたという。知人の男は公判で「日本で在留資格も就労資格もないので、犯罪で金を稼ぐしかなかった」と述べた。
県警は摘発を強化しているが、3月末時点で被害は595件と昨年を上回るペースで続発。今年もベトナムやカンボジア国籍の男を窃盗容疑で逮捕するなどしているが、複数の窃盗グループが存在していることから、いたちごっこになっているのが現状だ。
県警によると、太陽光発電施設などでの金属窃盗事件(昨年10月末時点)で、摘発した57件の全てが不法滞在の外国人によるものだった。不法滞在者らはSNSを利用して独自のネットワークを作り、金属盗の情報などを交換しているとみられている。
出入国在留管理庁によると、2022年に失踪した県内の技能実習生は405人に上り、全国で6番目に多い。こうした状況を受け、県警は昨年から入管と合同で不法滞在者を頻繁に摘発しており、県警幹部は「盗難事件の容疑者逮捕と不法滞在者への摘発を両輪として、被害を少しでも減らしたい」と話す。
盗難防止へアルミに変更
太陽光発電施設での銅製ケーブルの窃盗被害が急増していることを受け、銅より安価なアルミのケーブルを使用する施設が増えている。
アルミのケーブルを製造する古河電気工業(東京)によると、アルミは銅に比べて通電しにくいが、アルミの量を増やしたケーブルなら銅と同程度の通電が可能という。銅は需要の高まりから供給が難しくなっており、アルミのケーブルに切り替える事業者が増加している。
施設内に「アルミのケーブルを使用している」と外国語の看板を設置する事業者も出始めており、同社の担当者は「アルミのケーブルに置き換えることで窃盗被害に遭うリスクは大幅に減る。被害を抑止する有効な手段の一つとして検討してほしい」と話している。