市街地などの近くに定住し餌を探す「アーバンベア」対策が動き出している。岩手県花巻市は今年3月から、撮影した被写体を人工知能(AI)がクマと判断したら即座に、市農村林務課の担当者の携帯端末に画像をメール送信する「ツキノワグマ対策用IOT自動撮影カメラ」の設置を始めた。5月末までに市内15カ所に28台が設置される。カメラを販売したNTT東日本岩手支店によると、クマ対策でこれだけ多くのIOTカメラを設置し、AIでクマを識別する試みは東北初という。
花巻市では昨年度、中心市街地にクマが出没し、多くの市民を震撼(しんかん)させた。同年度のクマの目撃情報も500件を超え、200件ほどだった一昨年度の2倍を上回ったことから、アーバンベア対策が喫緊の課題となり、今年度予算では通信費も含め約400万円が計上され、「ツキノワグマ対策用IOT自動撮影カメラ」の設置が実現した。
機器を通信でつなぐモノのインターネット(IOT)技術を使った自動撮影カメラは、生き物の熱を感知して作動する。画像は即座にネット上にアップされ、AIが被写体を識別し、クマなどと判断したらほぼリアルタイムで画像が市の担当者にメール送信される仕組み。担当者は警察、猟友会に連絡し、現場に直行できるよう後押しする。市や警察に寄せられる目撃情報が頼りだったこれまでの仕組みと比べ、初動対応が大幅に早まると期待されている。
とりわけ、一刻を争う市街地近くの場合は、クマの早期発見と早期追い払いに威力を発揮すると見込まれている。カメラは、クマの専門家で市有害鳥獣対策参与の青井俊樹・岩手大名誉教授の指導を踏まえ、クマの移動ルートとされる河川敷を中心に設置される。目撃情報などを加味して設置場所を随時変更し、クマの移動経路の解明に役立てていく考えだ。
今年度に入り、市内のクマの目撃情報は今月12日現在ですでに30件に上る。これは昨年度同期の実に2倍に当たる。4月27日には、市街地の同市桜台でクマが目撃されている。カメラは今月14日までに14カ所で23台を設置された。
市農村林務課の山口周行課長は「クマの早期発見と早期追い払いに役立てるのはもちろん、不明な点が多いクマの移動経路の解明などにも取り組み、市民の安全確保に全力を尽くしたい」としている。
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各地で冬眠から目覚めたクマとの遭遇が増えてきた。昨年度は全国の人身被害が過去最多となり、「アーバンベア」も多数現れた。被害が多い秋田県によると、今年は集落の近くに定着し、人里への警戒心が薄い個体もいるという。国や自治体は注意を呼びかけている。
岩手県北上市の山中で4月18日、山菜採りをしていた男性がクマに顔面をひっかかれて重傷を負った。秋田県仙北市では同9日、住宅兼店舗の小屋に入り込んだ個体が猟友会のおりに捕らえられた。
仙北市によると、捕らえたクマは体長約1メートル、体重約17キロ。通常はこの体長なら約50~80キロのため極端に痩せていた。担当者は餌となる木の実などが十分でない可能性があると指摘した。
環境省は同16日、捕獲や調査を国が支援する「指定管理鳥獣」にクマを追加し、都道府県による対策強化を促した。秋田県はすでに、今年初めての被害防止連絡会議を開き、麻酔銃と吹き矢の配備を増やすなどと説明した。
県の担当課によると、クマと遭遇した場合は、背中を見せずゆっくり後ずさって距離を置くのが適切な対処になる。市街地ならそのまま近くの建物や車に避難し、なければ電柱に隠れるなどして間に障害物をつくる。もし襲われそうな場合は、両手を首の後ろで組んで顔を伏せ、致命傷を防ぐのが大事だという。(石田征広)