外国人観光客に「徴収金」、大阪府が検討…万博で導入目指した吉村知事、関係者の苦言で軌道修正

大阪府が、外国人観光客を対象にした全国初の「徴収金」構想を打ち出し、その検討を本格化させている。コロナ禍を経て海外からの観光需要は急回復しており、府は1人100~300円程度を徴収し、オーバーツーリズム(観光公害)対策の財源に充てたい考えだ。しかし、外国人を平等に扱うよう求める条約に抵触する恐れがあるなど、実現には多くの課題がある。(山本貴広、深沢亮爾)

徴収金は、吉村洋文知事が3月の府議会で導入を目指す考えを表明した。外国人に限定して課税する観光税のイメージだ。ごみのポイ捨てや交通機関の混雑などの観光公害対策の財源に充てることを想定する。
4月24日には、徴収金のあり方を検討する府の有識者会議の初会合が開かれた。税制や観光政策を専門とする大学教授ら7人の委員が、徴収金の具体的な使途や徴収方法を検討し、答申を出す方針。
背景には、円安などにより、外国人観光客が急増していることがある。大阪観光局によると、大阪府では2023年に979万8000人(推計)となり、コロナ禍前の19年の85%まで回復。国内全体では、今年3月は約308万人(推計)と、単月で初めて300万人を突破した。
吉村氏は初会合で、増加は今後も続くとの見方を示した上で、「地域住民との共存共栄を図るため、外国人観光客に一定の負担をお願いしたい。大阪や将来の日本にとって必要なことだ」と強調した。
徴収金の金額について、吉村氏は「100~300円」を挙げる。仮に100円にした場合、23年の実績で単純計算すると、約9億8000万円の収入となる。

導入には、様々なハードルがある。
日本が各国との間で結んでいる租税条約では、自国と相手国の国民を差別できないとの規定が盛り込まれている。日本から出国する人を対象に政府が一律1000円を徴収している「国際観光旅客税」が、外国人に限らず日本人も対象としているのはそのためだ。仮に徴収金を導入して対象を外国人に限定すれば、この規定に抵触する恐れがある。
府の有識者会議メンバーの山口洋典・立命館大教授(社会心理学)は初会合で、外国人観光客の定義の難しさを課題に挙げた。大阪に居住していない日本人も外国人に含めるという考え方もありうると指摘した上で、「公正な徴収を丁寧に考えないといけない」と述べた。
どうやって徴収するかも難題だ。府が府内のホテルや旅館などの宿泊客1人につき1泊100~300円を課税している「宿泊税」と同様に、ホテルや旅館に徴収してもらう案が有力だが、事業者のシステム入力の負担が増えることになり、反発も予想される。

導入する時期も論点になっている。
吉村氏は当初、大阪・関西万博が開幕する来年4月からの導入を目指す考えを示していた。しかし、万博の開催を監督する博覧会国際事務局(BIE、パリ)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長は4月10日に吉村氏と会談した際、「(海外からの)来場者は『我々は歓迎されていない』と思うのではないか」と述べ、万博後に先送りするよう求めた。吉村氏は「(万博に)無理に合わせるつもりはない」と軌道修正した。
制度の周知期間も必要で、府幹部は「万博にはとても間に合わない」と話す。

外国人観光客に限定した徴収金制度は、海外では例がある。
インドネシア・バリ島では、バリ州が2月から、文化財や自然環境を保護する名目で、外国人観光客に15万ルピア(約1500円)の支払いを求める制度を設けた。専用サイトや空港で納付する仕組みで、島内の観光施設で支払い証明の提示を求めるとしている。
バリ州政府の担当者は「インドネシア人が国内で払う税金の一部は、バリ島の文化財や自然保護にも使われている。外国人観光客だけに負担を求めているわけではなく、租税条約の規定に抵触するとは考えていない」と説明する。
一方、自国民も外国人も区別せずに負担を求めているケースは多い。「水の都」イタリア北部ベネチアでは4月から、旧市街地の日帰り観光客を対象に入場料の徴収が始まった。人出の抑制が目的で、料金は5ユーロ(約850円)。事前にオンラインで決済するか、現地で支払う。
京都市も観光公害対策の財源などとして、200~1000円の宿泊税を引き上げる方向で検討している。

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