架空の妹の戸籍をつくり、なりすました73歳の女に有罪判決…「年齢に関係なく仕事したかった」

25歳年下の架空の妹の戸籍をつくり、妹になりすましたなどとして、有印私文書偽造・同行使や詐欺などの罪に問われた女(73)に対し、東京地裁は28日、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役3年)の判決を言い渡した。薄井真由子裁判官は「身分証明制度の根幹を揺るがす悪質な犯行だ」と述べた。
判決によると、女は2021年10~11月頃、架空の妹の名義で、新たな戸籍をつくる「就籍」を求める書面を弁護士に作成・提出させ、家裁の許可を得て不正に戸籍を取得。23年7月にかけて、妹名義の国民健康保険証やマイナンバーカードを不正に得るなどした。
判決は、女が妹の詳細な生い立ちを設定し、自身と妹を演じ分けて弁護士や家裁職員らに対応していたことなどから「大胆な一方で周到さもある」と指摘。動機は、年齢で不当な扱いを受けることなく働きたいと考えたことだったとした上で、「戸籍といった社会の根幹システムに架空の人物を作り出して公的証明書を取得しており、動機を踏まえても刑事責任は軽くない」と断じた。
一方、女が事件の重大さを自覚し、反省の態度を示していることから、執行猶予を付けた。

「若くなれば自分に合った仕事ができる」

「年齢に関係なく気持ち良く仕事をしたいと思った」。女は8日の被告人質問で、年下の「妹」になりすまして偽の戸籍をつくった理由をそう述べた。
60歳代後半で警備会社に勤務していた頃を振り返り、「元気でやる気もあるのに軽い仕事しかさせてもらえず嫌気がさした」と不満を述べ、「陰で『ばばあ』とひとくくりに言われるのが嫌だった」とも語った。
就籍制度は偶然知ったといい、「若くなれば自分に合った仕事ができる」と考え、弁護士に「戸籍のない妹がいる」とうそをついて相談。家裁に就籍を申し立ててから約10か月後に戸籍を取得し、「妹」として別の警備会社に入ったという。
「仕事の幅が広がり、年齢のことを言われることは全くなくなった」と述べた女。最終意見陳述で「興味本位でやったことが大きな社会的問題になって申し訳ない」とうなだれた。
あるベテラン裁判官は就籍の手続きで家裁の許可が出たことについて、「申立人の説明が信ぴょう性に富んでいたら、虚偽と見抜くのは難しいだろう」とした上で、「今回のような事例があることを念頭に、慎重に判断していくしかない」と話した。

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