〈〈兵庫県政の闇〉パワハラ&おねだり知事だけではなかった。“牛タン倶楽部”と呼ばれる県を牛耳る幹部たちの「恐怖政治」…副知事の涙も関係者は「アホらしい」〉から続く
兵庫県の斎藤元彦知事と“牛タン倶楽部”と呼ばれる側近グループの違法行為疑惑が拡大している。3月に告発文書を出したことを理由に懲戒処分を受け7月7日に自死した元西播磨県民局長Aさんに、斎藤知事は文書を「嘘八百」と断ずる以前に事情聴取自体をしていなかった疑いが濃くなった。知事と県が公益通報者保護法を無視し、告発したAさんをつぶしにかかった実態があらわになった。
〈泣きじゃくった会見も…〉知事の側近・牛タン倶楽部の面々と県庁幹部の“蜜月”を揶揄するユニークなプラカード
「文書を作って流す行為は公務員としては失格です」
Aさんは3月12日、①昨年11月の阪神とオリックスの優勝祝賀パレードの費用をねん出するため県が信用金庫に補助金を増額しそれをキックバックで寄付させた、②昨年7月の斎藤知事の政治資金パーティー券の購入を、片山安孝副知事らが関係団体に補助金の減額をちらつかせ強要した-などとする7項目の疑惑を並べた文書を県警や県議会、メディア関係者ら約10人に送付した。
これを県は察知し、名指しされた疑惑の当事者で牛タン倶楽部の一員でもある片山副知事が3月25日朝に西播磨県民局長室を突然、訪れてAさんのパソコンを押収。その中から告発文書のデータを発見した。「Aさんはパソコンが押収された直後の3月25日の昼前、別の県幹部に対して『告発文書は自分一人で作成した。他に関係者はいない』と電話で通告し、翌26日には県側と電話で『情報入手経路についての漠然としたやり取り』をした、と書き残していますが、これ以外に県からは告発文書の内容の真偽への考えや動機について全く聴取を受けていない、と言っていました。Aさんは自死する直前まで文書の中身は嘘ではないと言い続けていたので県の聴取を受けたと思われていましたが、県は3月下旬の段階で本人の言い分を聞く機会をまったく設けていなかったようです」(Aさんの知人)
ところがパソコン押収の2日後の3月27日の会見で、斎藤知事は文書の中身を「嘘八百」と断定しながらこう発言した。「人事担当の片山副知事とも相談しながら対応したということになりますけど、職務中に職場のPCを使用して、ありもしないことを縷々(るる)並べたような内容を作ったっていうことを本人も認めてますから」「やっぱり公務員ですから、いろいろあるにしても、選挙で選ばれた首長の中で、みんなが一体として仕事をしていくことが大事なので、それを、なんか不満があるからといって、しかも業務時間中に、嘘八百含めて、文書を作って流す行為は公務員としては失格です」
そして県は同日Aさんを県民局長職から解き、3月末での退職希望を保留して認めず、5月になって停職3か月という懲戒処分を出している。「Aさんは4月4日になって県の公益通報窓口に告発文書と同じ内容の通告をしています。そもそも公益通報者保護法ではメディアへの情報提供も公益通報と認められており、告発文書の存在を知った時点で県はAさんへの不利益になることをしてはならなかった。少なくとも4月4日の窓口への通告後は保護対象であったのに、そうした法を無視して懲戒処分を強行したのです」(県関係者)
会見であっさりと自分の“創作”を認めた知事
斎藤知事は7月24日の記者会見で、外部への情報提供も公益通報になるとの指摘に対して「いろんな考え方はあると思う」と一蹴し、「今回は(県窓口への)公益通報前に当該文書が配布された。文書の内容は明らかに核心的なところを含めて事実と異なる内容が多々含まれる。虚偽、誹謗中傷性のある文書だと捉えて調査をさせていただいた。内部調査の結果、そういった文書であると認定された」「懲戒処分は適正に対応した」と繰り返した。だが、牛タン倶楽部がにらみを利かす県人事当局と知事が「事実と異なる」と主張しても、“被疑者本人”が否定しているというだけの状況である。彼ら自身は真偽を判定する立場にないだろう。
斎藤知事の3月の会見で注目されるのは、「Aさんが虚偽の内容の文書を作ったことを認めた」とし、それは「不満」があったからだと断言したことだ。この2点は生前のAさんの主張と明らかに食い違う。7月24日の記者会見で「集英社オンライン」の記者が問いただすと斎藤知事はこう答えた。
「確かあの文書自体を作成したことは本人(Aさん)も認めているという報告を受けていたと思います。そこは分けて考えとく必要があると思います。私としては、虚偽内容が多々含まれている文書だという認識。そして、本人は文書を作ったということを確か、人事課もその当時、当時文書の作成自体は認めてたんですよね」「Aさんが文書を作ったことを認めた」という事実と、知事の「虚偽内容が多々含まれている」との主張を組み合わせて「ありもしないことを縷々並べたような内容を作ったっていうことを本人も認めてますから」と言い切ったというのだ。
さらに、Aさんが不満をもっていたと言及した根拠を問うと「私としては、当該文書っていうものが事実無根の内容が多々含まれているっていうことですから、それはやはり、様々な不満があるんだということを、あの、当然推定した、ということですね」と、あっさりと自分の創作であることを認めた。Aさんが“虚偽だと認めた”“不満を持っていた”とする知事の2つの発言は、Aさんを不満分子に仕立て上げる印象操作の最たるもので、ほとんどの関西のマスコミはこれに乗せられて告発を取り合わない事態になった。
3月25日のヒヤリングはあったのか?知事に問うと…
状況が変わったのは、牛タン倶楽部の一員である原田剛治産業労働部長が企業からコーヒーメーカーを受け取った収賄罪の可能性もある不正が発覚し、丸尾牧県議がゲリラ的に行なった県職員へのアンケートで斎藤知事のパワハラを含む告発文書に沿った証言が続々と寄せられた後のことだ。「県議会でも不信が広がり、調査特別委員会(百条委員会)が設置されるまでになりましたが、この過程で片山副知事は『自分が辞職するから百条委だけはつくらないでくれ』と自民党県議団に泣きついていました。それでも百条委の設置が決まると、牛タン倶楽部の他のメンバーはAさんのパソコンに入っていたプライベートな内容を含むデータをプリントアウトし、持ち歩いて県議らに見せ、3年前の知事選で斎藤氏を推した維新の岸口実県議や増山誠県議はこのパソコン情報を百条委で全部公開すべきだと主張したりもしました。その先に、Aさんは自死を選択したのです」(Aさんの友人の県関係者)
徹底したAさんつぶしの先頭に立った片山元副知事は3月27日、Aさんに西播磨県民局長の職を解くとの辞令を手渡している。その際にAさんは「証拠に基づいてきちんと判断してくださいよ」と伝えている。「実はAさんも片山副知事も人事課長経験者で、二人とも公益通報制度に熟知している。Aさんは、自分の内部告発を通報制度に基づいて調べれば態度を改めるべきは知事とその周辺であることがはっきりする、という決然とした意志を伝えていました」(Aさんの知人)
そのAさんの要求も公益通報制度の趣旨も無視した懲戒処分を出した県人事当局。その頂点にいた片山氏は辞任すると言い始め、7月12日に開いた会見では「なんで知事を支えられなかったのかと、悔しいて、しょうがないです」とむせび泣くようなしぐさをしてみせた。その際片山氏はAさんに3月25日にヒヤリングをした、と述べた。しかし既述の通り、Aさんは3月末までに事情聴取を受けなかったと言い残している。
はたして片山元副知事が言う3月25日のヒヤリングはあったのか。会見で斎藤知事にたずねると「人事当局の方に聞いていただければ思います」と返って来た。そこで県人事課に聞くと「人事管理に関する事項は答えられない」という。片山副知事に事情を聴こうと携帯電話を鳴らしたが取ろうとせず、メッセージで質問を送ったが返事はなかった。亡くなったAさんは、斎藤知事に「公務員失格」とまで言われ尊厳を傷つけられた直後の4月初旬、これに反論する書簡をまとめている。その末尾に、傍らにあった書籍からこぼれ出た栞に書かれていたとして、アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーの言葉を記し、「後輩職員達への最後のエールとして」と結んでいた。神よ、変えてはならないものを受け入れる冷静さを、変えるべきものは変える勇気を、そして変えてはならないものと変えるべきものとを見分ける知恵を我に与えたまえ。Aさんが願った方向へ、兵庫県は向かい始めているのだろうか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班