【独自取材】「知事は自分を知事様と思っている」死亡した元幹部と親しかった元県職員の証言 斎藤知事パワハラ疑惑めぐる”告発者さがし”の実態とは

今年3月、兵庫・斎藤元彦知事のパワハラ疑惑についての告発がありました。告発した県の元幹部は停職3か月の懲戒処分となり、7月に死亡しています。告発者への県の対応は適切だったのか?MBSは斎藤知事と死亡した元幹部を知る県の元職員を独自取材しました。
今年3月「知事のパワハラは職員の限界を超え…」知事の疑惑を告発

(兵庫県 斎藤元彦知事 3月27日)「不満があるからと言って、業務時間中に、うそ八百を含めて文書を作って流す行為は公務員として失格ですので」
自らに向けられた疑惑を真っ向から否定し、うそ八百とまで言い切った兵庫県の斎藤元彦知事。
強い非難の言葉の矛先は、会見の2週間前に知事の疑惑を告発する文書を一部の報道機関などに配布した県の元幹部(60)でした。元幹部は当時、県の西播磨県民局長を務めていて、告発は『匿名』で行われました。

【元幹部が作成した告発文より】 「知事のパワハラは職員の限界を超え、あちこちから悲鳴が聞こえてくる」 「例えば、出張先の施設のエントランスが自動車進入禁止のため、20m程手前で公用車を降りて歩かされただけで、出迎えた職員・関係者を怒鳴り散らし、その後は一言も口を利かなかったという」
文書の配布を受けて、県は3月下旬から内部調査を開始。
“匿名”で行われたはずの告発…5月には元幹部を告発者と特定

5月には元幹部を告発者と特定し、文書について“核心的な部分が事実ではない”などとして、停職3か月の懲戒処分としました。
しかし、処分の1か月前には、県の産業労働部長が文書で指摘された企業から、高級コーヒーメーカーを受け取っていたことが判明し、文書に一部事実が含まれていたことが明らかになっていました。
さらに、一部の県議が県の職員約400人を対象に実施したアンケートでは、回答した27人のうち10人が知事のパワハラを指摘。中には、こんな証言も…

(県職員の証言)「3月に知事が出席したイベントで、授乳室をクローズドにして知事専用の個室に一時的に切り替えざるを得なかった。実際、授乳室を利用したいママさんが困っていた」
これに対し、知事は…
(兵庫県 斎藤元彦知事 5月22日)「その部屋が授乳室であることは正直認識していなくて、結果的に県民の皆さまにご迷惑・ご不便をかけたことはおわびします」
「報復人事の可能性」と県議は指摘 元幹部は7月に死亡

アンケート調査を実施した丸尾牧県議は、こう指摘します。
(丸尾牧県議)「アンケートで、元幹部の言っていることが正しいという人も複数出てきた。(元幹部への懲戒処分について)これはやはり報復人事、見せしめの人事だった可能性が非常に高くなったと思っています」
こうした事態を受けて議会は6月、51年ぶりとなる百条委員会の設置を決定。知事の疑惑について本格的な調査が始まり、7月中旬の委員会には告発者である元幹部が“最初の証人”として出席することも決まりました。
しかし、そんな矢先、事態は急展開を迎えます。7月7日、元幹部が、姫路市内で死亡しているのが見つかったのです。

自殺とみられ、家族には「一死をもって抗議をする」というメッセージを残していました。
元県職員を独自取材「知事は自分を『知事様』だと思っている。県庁内は疑心暗鬼」

今回、MBSは、退職して間もない県の元職員を独自に取材。匿名・カメラ撮影なしという条件で、生前、元幹部が語っていた“告発者さがし”の実態や、混迷する県政の内情について新たな証言を得ました。
元県職員は斎藤知事の就任以降、知事のパワハラを訴える職員の声を、現場でたびたび耳にしてきたといいます。

【元県職員取材時のメモより】 (元県職員)「説明に行ったとき、聞く耳を持ってくれないとか、机を叩いて怒るという話は、直接やられた職員から聞いた」 (記者)「知事は、どういうときに怒るのですか?」 (元県職員)「知事は自分が『知事様』だと思っているから、丁寧に対応しないと怒る。『俺は知事やぞ!』『知事をこんないい加減に扱っていいんか!』と。県庁内は、疑心暗鬼で満ちている。誰を信用すればいいのか分からない、今の体制が続く限り、何をされるか分からないと、みんな思っている」
元県職員は、死亡した元幹部と親しい間柄で、告発の1週間後には姫路市内の飲食店で食事をともにしていました。元幹部は自身が告発者であることを伏せていましたが、「県の未来を憂いていた」と振り返ります。
(元県職員)「いつもはしょうもない話ばかりだが、3月18日に飲んだ時は愚痴が多かった。『これから県庁はどないなるんやろう』『後輩がかわいそう』と。積み上げるのには時間がかかるけど、壊すのは一瞬やなと言っていた」
3月に行われた“告発者さがし” 人事課は「同意の上で」と説明したが…

この会話が交わされた頃、県の人事課は“告発者さがし”に着手しました。3月25日には、副知事(当時)らが西播磨県民局へ出向き、元幹部が使っていたパソコンを回収。のべ8時間に及ぶ聴取を経て元幹部を告発者と特定します。人事課は当時、これら全ての調査について元幹部から「同意を得て行った」などと説明。
その一方で、調査が元幹部への懲戒処分を前提に進められたことも明言しました。

(人事課の担当者 5月7日)「人事当局としては、懲戒処分を前提とした調査を行うにあたって、関係者の供述だけではなく、裏付けとなる物的な証拠もできる限り集めています。のべ8時間にわたる聴取を丁寧に行っているので、我々としては適切な調査を尽くした」

しかし、元県職員によりますと元幹部は「プライベートで使用していたUSBまで根こそぎ持っていかれた」などと強引な県の調査の実態を語っていたといいます。
【元県職員取材時のメモより】 (元県職員)「人事課の発表では、パソコンの回収も『同意の上で』となっているが、元幹部は『不意打ちだった』と言っていた」
専門家「名前が暴露されるということは、制度自体を揺るがす」

実は、元幹部は処分の1か月前に、県の公益通報制度を利用し、一連の疑惑を内部通報していました。
一方で県は、元幹部が内部通報を行う前に文書を配布しているため、保護の対象にはならないと判断。
また、MBSが行った情報公開請求では、県の調査に協力した弁護士が文書を「居酒屋などで聞いた単なる噂話で作成した」などと指摘していたことが分かりました。

制度に詳しい専門家はこう話します。
(淑徳大学 日野勝吾教授)「まず、内部通報の窓口で受理している以上は、この手続きの流れで調査すべきだったわけです。完全な誹謗中傷であれば処分に値するかもしれませんが、真実相当性もあるということであれば、そこはやはり、人事の対応は待った方が良いし、そもそも、人事上の処分はできなかったと思います」
また、元幹部が3月に報道機関などに対して行った匿名の外部通報の時点で、公益通報に該当する可能性があり、県が行った“告発者さがし”にも違法性があるといいます。
(淑徳大学 日野勝吾教授)「しっかりと通報者・告発者を保護するという観点が必要。やはり声を出す側からすれば、非常に勇気が要ることですから、名前が暴露されるということは、制度自体を揺るがす問題だと思っています」
会見で改めて斎藤知事に問うも「保護要件には当たらない」

8月7日の会見で、改めて斎藤知事に問うと。
(記者)「改めて3月時点の告発がなぜ、公益通報に該当しないと判断したのか?」 (斎藤知事)「それをじゃあ、誰が見たんですか、誰が目撃してやったんですかという具体的な供述や証拠が書かれていない資料だと思った」 (記者)「誰が言っていたというのは、なかなか書きづらいところもあるのでは?」 (斎藤知事)「そうであったとしても、外部通報の要件としては、信用性の高い供述・裏付ける証拠が必要とされていますので、保護要件には当たらないと考えています」
今後、百条委員会で県の職員への証人尋問も予定される中、知事の姿勢が改めて問われています。

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