南海トラフ地震の臨時情報(巨大地震注意)発表を受け、日本を旅行中の外国人に戸惑いが広がっている。状況を理解できていない訪日客も多いとみられ、専門家は政府による詳しい情報発信が必要だと指摘する。
「もっと発信を」
「情報が少なく、何に注意したらいいかわからない」。オーストラリアから来日し、東京・浅草を観光していた会社員アドリアナ・デュランさん(33)は困惑した表情を浮かべた。
8日の地震発生後、政府監修の外国人向け災害情報を取り入れたアプリをダウンロードしたが、巨大地震注意の情報は見当たらなかった。来日は2回目で田舎も訪れたかったが、外国人の対応に慣れた大都市だけにするつもりだ。「外国人向けにもっと情報を発信してほしい」と望む。
スペインから旅行で訪れた英語教師ナタリア・テヘラさん(33)が8日の地震後に頼りにしたのは、地元の友人がSNSで送ってくれる情報だった。神奈川県を震源とする地震が起きた9日夜は東京・新宿にいたが、「強い揺れと緊急地震速報のアラーム音に死を覚悟した」といい、「周囲の人に状況を尋ねても教えてもらえなかった」と残念がった。
月300万人超
日本政府観光局によると、今年6月に日本を訪れた外国人観光客は313万人に上り、単月では過去最多になった。だが、観光庁が訪日客向けに「災害時に役立つツール」として案内するアプリ「Safety tips」に巨大地震注意の発信は見られない。
一方、宮崎市は8日の地震後、21言語に対応する「災害時多言語コールセンター」を開設し、24時間受け付ける態勢を敷いたが、9日午後5時までにかかってきた電話はゼロだった。
地方の情報も
各地の観光地では、外国人に直接情報を伝える取り組みが進む。「第71回よさこい祭り」は10日に本番を迎え、高知市の観光案内所では急きょ、最寄りの避難場所や経路を示した地図を作成した。8言語に対応した高知県の防災アプリも紹介している。
タイから1人で訪れたスィリポーン・バンディットジラクルさん(47)は「地震があった時の情報の探し方がわからなかったが、防災アプリの説明を受けて安心した」と話した。
静岡県熱海市の観光案内所は多言語対応の翻訳機を備えており、外国人観光客には英語表記の津波ハザードマップで説明していく。観光で訪れたフランス国籍の留学生ユリス・フェルテさん(24)は「母国では地震は珍しいので強い地震は怖い。いざという時にどこに逃げるべきか確認しておきたい」と話した。
神戸学院大の前林清和教授(社会防災学)は、「訪日客は自分がどの自治体を旅行しているかわからないケースも多い。国は地方の情報も吸い上げて外国人向けに発信する必要がある。訪日客に人気の観光アプリに情報を共有する連携も大切だ」と話している。