若者の自殺防止に取り組む相談窓口が慢性的人員不足 SNSは毎月1万人前後がアクセス

若者の自殺防止に取り組む相談窓口が、慢性的な相談員不足で対応しきれない事態になっている。支援団体が運営する交流サイト(SNS)を使った相談窓口には、毎月1万人前後のアクセスがある。相談員を増やし体制を強化しても人手は足りず、団体代表は「新たな受け皿となる場が必要だ」と危機感を募らせる。
相談員200人在籍
「人員が常に不足しています」
自殺防止に取り組むNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」(東京)の清水康之代表(52)は真剣な面持ちで語る。同法人はSNSや電話、メールで相談を受け付ける窓口を運営。SNSの相談窓口「生きづらびっと」には、毎月約1万人のアクセスがあり、約3千~4千人の相談を受ける。
現在、約200人の相談員が在籍し、支援職や一般企業などで働く傍ら相談業務に当たっている。SNS相談は1日約20人体制で、午前8時から午後10時半までだが、120人程度の対応が限界という。清水代表は「文字だけではどうしても情報量が少ないため、相談を深めていくのに時間がかかる」と話す。
昨年度は相談希望者の3~4割しか対応できず、現場の体制強化を図っても追い付いていない状況だという。
採用も難しく
警察庁の統計によると、小中高生の自殺者数は増加傾向にあり、令和4年は過去最多の514人、5年は513人だった。このため、同法人でも相談員の確保に取り組むが、清水代表は「誰でもなれるわけではない」と説明する。
相談者の思いを受け止めつつ、具体的な話も踏み込んで聞く必要があるが、自身の気持ちを抑えられずに意見などを押し付けてしまう人もいる。応募者の3割程度しか採用できない上、研修の段階で断念する人もいる。
相談にたどり着けず、行き場がないと感じている若者の新たな受け皿を作ろうと、同法人は3月に絵本作家のヨシタケシンスケ氏の協力を得て、「かくれてしまえばいいのです」と名付けたインターネットサイトを開設した。
7月26日には武見敬三厚生労働相が同法人を視察し、サイトを体験利用。視察後、報道陣に対策強化の必要性を強調した。
国の対策遅れ
相談対応の現場が逼迫(ひっぱく)する現状について、自殺予防対策に取り組む中央大人文科学研究所の高橋聡美客員研究員は「他の自殺防止支援を行う団体でも同じ状況が起きている」という。
平成18年の自殺対策基本法の施行以降、若者の自殺問題は重点課題とされた一方、対策は民間頼みで、国が効果的な対策を進めてこなかったことが、自殺者数の増加につながったと分析する。
文部科学省は今年度予算で自殺予防教育の指導モデル開発などを盛り込んだ。高橋氏は若者の自殺を防ぐために「スピード感のある効果的な対策が求められる」と訴える。(村田幸子)

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