岸田文雄首相が自民党総裁選の不出馬に追い込まれた背景については、内閣支持率の低迷や党内の支援獲得の失敗、株価の暴落などが指摘されている。元内閣参事官で嘉悦大教授の高橋洋一氏は元日の能登半島地震など災害への対応のミスと、得意とする外交での失敗がダメ押しになったと読み解く。9月の総裁選では、麻生太郎党副総裁と菅義偉前首相という2人の「キングメーカー」の争いとなるが、11月の米大統領選を視野に入れた場合、高市早苗経済安保相の存在が浮上するという。
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岸田文雄首相が14日、9月の自民党総裁選への不出馬を表明した。前日まで、出馬を検討しているとも見られており、党内外に衝撃が走った。
今から思うと、岸田政権の末期症状は危機管理の面に表れていた。綻(ほころ)びの一つは、本コラムで何度も指摘したように、元日の能登半島地震で、補正予算を打てなかったことだ。震度7の地震に対する補正予算に反対する政党はないはずで、政治家として絶好の見せ場なのに、その機会を逃した。
ダメ押しは、8月8日の日向灘地震だ。南海トラフ巨大地震への波及が懸念されるのは確かだが、ここは「巨大地震注意」の臨時情報を出しても、[地震への備えを再チェックするだけに留め、日常生活や既に決めた予定を変更することはない]と、首相の口から言っておくべきだった。
しかし、首相は8月9~12日に予定されていた中央アジア訪問をドタキャンした。これは危機管理の面からも、外交面からもひどかった。
訪問を予定していた中央アジア5カ国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)はロシア、中国、イランおよびアフガニスタンに囲まれ、ユーラシア大陸中央に位置している。日本にとって対ロシア、中国、イランの戦略上要衝であり、資源など日本の国益確保の面でも重要国なのに、その好機を逃してしまった。「外交の岸田政権」らしからぬ話だ。
こうしたミスが出ては、もはや政権運営はできない。岸田首相なりの政治判断であり、政治のケジメだろう。
もちろんここに至るまで、「政治とカネ」の不祥事がボディーブローのように岸田政権に打撃を与えてきたが、最後は地震の危機管理の問題だったというのが筆者の見立てだ。
いずれにしても、これで総裁選は事実上始まった。キングメーカーとして、麻生太郎党副総裁と菅義偉前首相の争いとなるだろう。
「米対応」で適任は高市氏
手駒としては、菅氏が優勢だ。「小石河」といわれる小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相ら、党内外で人気が高いとされている人への影響力がある。特に小泉氏は父親の純一郎氏のアドバイスもあり、若すぎて出馬しないといわれたが、ここにきて若さの魅力が復活している。
麻生氏は一時、上川陽子外相が本命といわれたが、最近は勢いがないようだ。一部には高市早苗経済安保相が隠し玉だという人もいる。もし、国民人気のある高市氏を党内基盤のある麻生氏が担げば、前回の総裁選で高市氏を安倍晋三元首相が担いで旋風を巻き起こした現象の再来になるかもしれない。
実は高市氏は、11月の米大統領選で勝つのが共和党のドナルド・トランプ氏でも民主党のカマラ・ハリス氏でも対応できる稀有(けう)な人物だ。トランプ氏であれば保守として政策で波長が合うだろうし、ハリス氏でも女性同士、しかも高市氏はかつて米民主党議員のスタッフの経験もあるからだ。
いずれにしても、総裁選で大いに論戦してもらおう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)