「警視庁捜査2課のイトウです」 元2課担の本紙記者にかかってきた〝特殊詐欺〟電話

今年8月上旬、知能犯事件を担当する警視庁捜査2課の刑事を名乗る人物から、記者のスマートフォンに突然電話がかかってきた。犯罪捜査の過程で記者の銀行口座の存在が浮上したという。当然、身に覚えはなく、不信感を伝えると電話は一方的に切れた。その後、何も音沙汰もなく、特殊詐欺の電話だった可能性が高い。令和5年に全国で確認された被害総額が450億円以上と、後を絶たない特殊詐欺事件。記者も一瞬、肝を冷やした「だましの口上」とは-。
「銀行口座が事件に」
「警視庁捜査2課のイトウです。大泉さんでしょうか?」
8月上旬の平日午前中。突然、記者のスマートフォンに着信があった。非通知だったが、取材先からの電話の可能性もあるため応答すると、男の声がこう名乗り、記者の名字も口にした。
一応、こちらも記者の端くれ。半信半疑ながら特殊詐欺を疑ったが、「警視庁」と名乗られると、やはりドキッとする。以降、内容はより具体的になっていく。
「栃木県警の捜査で、大泉さんの銀行口座が、ある事件で使われていることが分かりました」。当然だが、何らかの犯罪に加担した記憶はない。その旨を伝えると「確認したいことがありますので、これから周りに誰もいない場所に移ってください」ときた。
特殊詐欺の記事で見たことがある手口。疑いは確信に変わり、少し、こちらも攻勢に出ることにした。
「ところでイトウさん、私の職業はご存じでしょうか」。記者が話を向けると、男は少々気色ばんで「そんな簡単に個人情報が分かるわけがないでしょう。捜査は大変なんです」と反論した。
今から10年以上前のことだが、記者は警視庁捜査2課の担当をしていたことがある。当時の取材を通して、当局の捜査能力の高さは実感している。電話番号や口座を把握している以上、本物の警察であれば、こちらの職業も把握していないわけはない。
「イトウさん、何か怪しい気がします」。こう率直に伝えると、唐突に電話は切れた。以降、電話はかかってこない。
手口は多様で念入り
記者にこうした電話がかかってきたことは、多くの人々の名前と電話番号が、犯罪グループの間に出回っていることを示唆している。
また、記者が動揺し、うろたえたそぶりを見せていたなら、過去の特殊詐欺の報道や警察庁のまとめなどから類推するに、電話口の相手はさまざまな手段を弄して実際の口座番号などのより細かな個人情報を聞き出そうとしただろう。場合によっては「逮捕」をちらつかせ、口座から現金を送金させるなどの要求をしてきた可能性もある。
今回の場合は「警察官役」の1人と話しただけだが、検察官や弁護士、公務員など複数の登場人物や連絡先を使って内容に現実味を持たせるケースは多い。こうした多様で念入りな手口は「劇場型」などと呼ばれ、被害者から正常な判断力を奪う。
警察庁によると、令和5年の全国の特殊詐欺被害総額は前年比81億8千万円増の452億6千万円。認知件数は同1468件増の1万9038件と、被害は絶えない。
加えて東京都内では今年に入り、警察官を騙る手口の特殊詐欺が急増している。警視庁によると、昨年1年間で15件だったのが、今年は1~6月の上半期のみで83件に上る。
警察庁の対策ページでは、特殊詐欺の手口や対策、緊急連絡先を公開。「被害は誰の身にも起こる可能性がある」と、注意を呼び掛けている。(大泉晋之助)

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