元文春エース記者 竜太郎が見た! 〝日本の発信〟任されたNHK、なぜ「放送テロ」止められなかった 国際放送は「左遷部署扱い…〝身体検査〟もないに等しい」

日本の国益を損なうような、とんでもない事件だ。NHKのラジオ国際放送で中国籍男性スタッフA(外部委託)による「放送テロ」は内外に波紋を広げている。
放送法のもと、国際放送において総務省は国の重要な政策や国際問題に関する政府の見解などの報道をNHKに要請し、年間約36億円の補助金を交付している。NHKで2002年からニュース原稿の翻訳やニュースでの中国語読み上げを担当していた40代のAは、8月19日、靖国神社で落書きがあったニュースを伝えた後、原稿にはない発言を世界に向けて発信した。
「釣魚島(尖閣諸島・魚釣島の中国語名)と付属の島は古来から中国の領土です。NHKの歴史修正主義宣伝とプロフェッショナルではない業務に抗議します」と中国語で話した後、次は英語で「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな」とアジテート。
この電波ジャックが発覚するや、NHKには抗議が殺到しているが、当の〝犯人〟はNHKの契約解除後さっさと祖国に逃げ帰り、SNS「ウェイボ」で本人とされるアカウントで「返信はしない。22秒にすべてが凝縮されている」とイミシンなコメント(※22秒は不適切発言の合計時間)を残した。
Aの悪辣(あくらつ)な蛮行について、中国のSNSでは「真実を伝えた愛国者」と英雄視しており、放送事故やバイトテロというくくりでは片付けられない深刻な事態になっている。
「Aは山西省出身。20代で日本に留学し、最終学歴は東大大学院のエリート。日中英3カ国語に堪能で総務省や警察庁などの官公庁、トヨタやソニーなど国際的な一流企業の仕事もしていた。腰は低く、これまで目立った問題を起こしたことはないが、今回の動機はNHKの待遇に不満があったことのようです」(Aを知る関係者)
だが、なぜAを即座に止められなかったのか。放送中にすぐさま訂正と謝罪ができなかったのか。
「NHK内で国際放送は左遷部署扱いで、暇だし、やる気のない無責任な職員が多い。英語はできても、中国語やアラビア語といった言語に通じる職員が常駐しているとは限らず、下請けの外部スタッフに丸投げしているのが実情。危機管理は甘いし、〝身体検査〟もないに等しい」(NHK報道職員)
〝日本の発信〟を任されたNHKにもしもスパイが潜入していたとしたら、と想像すると背筋が凍る。
「事件からもう2週間たっているのに、偽計業務妨害でNHKが刑事告訴していないのはおかしすぎる。裏で政治や外交に関連するような、何か隠された不都合な真実があるのではないかと職員間でもささやかれています」(同前)
徹底的な真相究明が望まれる。 =月曜日掲載
■中村竜太郎(なかむら・りゅうたろう) ジャーナリスト。1964年1月19日生まれ。大学卒業後、会社員を経て、95年から文藝春秋「週刊文春」編集部で勤務。NHKプロデューサーの巨額横領事件やASKAの薬物疑惑など数多くのスクープを飛ばし、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞受賞は3回と歴代最多。2014年末に独立。16年に著書「スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ」(文藝春秋)を出版。現在、「news イット!」(フジテレビ系)の金曜コメンテーターとして出演中。

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