ラジオ国際放送などの中国語ニュースでの不適切発言問題で、NHKは10日、元外部スタッフの中国籍の男性による発言は「『放送の乗っ取り』とも言える事態」だったが、「事案の発生時に即座に対処できなかっただけでなく、視聴者・国民への適時の説明などでも対応が十全でなかった」などとする調査結果を公表した。
これに伴い、稲葉延雄会長や井上樹彦副会長ら役員4人が役員報酬の50%(1か月)を自主返納。国際放送担当の傍田賢治理事は10日付で辞任した。このほか、天川恵美子国際放送局長ら職員5人を減給などとした。男性の契約先であるNHKグローバルメディアサービスでは、神田真介代表取締役と馬場広大専務が役員報酬の一部を自主返納する。
男性に対しては、信用毀損などの損害賠償を求める訴訟を提起。刑事告訴についても慎重に検討しているという。
男性はNHKの関連団体と契約し、2002年からニュース原稿の中国語への翻訳と、読み上げ業務を週2回程度担当していた。8月19日にラジオ国際放送などの生放送で、靖国神社での落書き事件のニュースを読んだ際、中国語で尖閣諸島は「中国の領土」など、英語で「南京大虐殺を忘れるな」などと計約20秒にわたり、原稿にない発言を続けた。
男性は既に契約を解除されている。NHKの調査では、男性は過去3か月の間では、原稿にない内容を読み上げたケースはなかった。しかし、男性は中国当局の反応への不安や懸念、処遇への不満を直接、NHKの職員に伝えることがあった。この中で、沖縄県の尖閣諸島を例にあげて、翻訳業務を拒否できるかどうか質問することもあったという。
放送当日には、原稿内容についてディレクターに尋ねた上で「NHKの原稿はあいまいで、あいまいなものをそのまま翻訳して中国語で放送したら、個人に危険が及ぶ」「NHKはその責任をどう考えるのか」などと声を荒らげ、強く反発。近くの席にいたデスクが「大きな声を出すのはやめてください」と止めに入るほどだったという。
その後、男性は生放送で問題発言を行ったが、その際にデスクらは、原稿にない発言が行われたことは認識していたが、音声を下げる措置などは、「突然のことで対応できなかった」と説明している。
放送後、デスクらは「さっきのは一体何なんですか」「なぜこんなことをしたのか」などと詰め寄った。これに対し男性は「僕は辞めますから」「日本の国家宣伝のために、これ以上個人がリスクを負うことができない。あとは代理人を通して」などと繰り返し、職場から立ち去り、現在、連絡が取れなくなっている。
この問題では9月8日までに、NHKに対する批判的意見を中心に4280件の視聴者の声が寄せられている。