乗客乗員26人全員が犠牲となった知床観光船沈没事故。痛ましい事故から2年5カ月が経ち、ようやく運航管理責任者が逮捕された。
北海道・知床半島沖で2022年4月、知床観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故で、第1管区海上保安本部網走海上保安署は18日、運航会社「知床遊覧船」の社長、桂田精一容疑者(61)を業務上過失致死などの疑いで逮捕した。
「事故原因は、船首付近のハッチに不具合があり、完全に閉鎖されていない状態で出航したこと。悪天候で船体が揺れ、開いたハッチなどから大量の海水が船内に流入した。桂田社長は船舶の知識や経験がなく、法令が定める資格条件を満たさないのに、安全統括管理者と運航管理者を務めるなど、管理体制に問題があった」(捜査事情通)
事故当日、桂田容疑者は豊田徳幸船長(当時54)と協議の上、出航を決定していたが、乗客家族に対しては、昨年8月、文書で「出航の最終判断は船長が行った」「船体点検の責任者は船長」と責任転嫁とも捉えられかねない説明をしていた。乗客14人の家族らは今年7月、桂田容疑者と会社を相手に約15億円を求める損害賠償請求訴訟を起こした。
■説明責任は果たさず、平然と複数の宿泊施設を経営
「事故以来、桂田社長は一部を除いて地元の住民たちとの交流がなく、観光業に与えたダメージについての謝罪もありません。昨年の観光船の利用客は例年比70%減まで落ち込みました。4社あった観光船業者のうち1社が今年3月末で廃業し、もう1社も休業状態です。逮捕されたからといって終わりでも区切りでもありませんが、立件は難しいといわれていただけに、周囲の受け止めは『やっと』というのが正直なところです」(地元観光業者)
桂田容疑者は26人死亡という大惨事を起こしておきながら乗客家族への説明から逃げ回り、会見を開いたのは事故4日後だった。当時、知人には「逮捕はない」と伝え、その後も説明責任を果たさないまま、地元で複数の宿泊施設の経営を続けてきた。
桂田容疑者を幼少期から知る近隣住民がこう言う。
「周りに何の説明もなく、平然と商売を続けています。人としてちょっとそれはないんじゃないかと、皆、思っている。顔を見かけても挨拶することもないし、誰とも関わりを持ちたくないような雰囲気を出していた。本来ならば言うべきことと、やるべきことがあると思いますが、それすらしない。会見の謝罪にしたって本当に心からそう思っているのか、伝わってこない。船長に責任を押し付けようとするからああいう態度になるのか、自分が悪いわけではないと思っているようにしか見えません。自分の会社の従業員が起こした事故なんだから、責任者の社長が謝罪するのは当たり前です。観光業に携わる立場として、説明責任を果たさないといけない。それ以上もそれ以下もありません。といっても、何をいまさらですが……」
やっと逮捕されたとはいえ、このままでは遺族らもやり切れない思いだろう。