夜の青木ヶ原樹海で人影確認、スピーカー付きドローンが現場に急行…「自殺の名所」イメージは松本清張の小説から

富士山麓に広がる青木ヶ原樹海で18日、ドローンの夜間パトロールに関する報道陣への説明会が行われた。山梨県が「自殺の名所」とされる樹海のイメージを変えるために今月から導入した肝いりの対策だ。赤外線カメラで人影を判別し、スピーカーで思いとどまるよう呼びかける全国的にも珍しい取り組みで、関係者がその効果に期待を寄せている。(大野琳華)
青木ヶ原樹海内の洞窟「富岳風穴」(山梨県富士河口湖町)近くで行われた説明会。ドローン運用会社の社員らが実際に機体を樹海上空に飛ばし、どのように人を見つけ出すのかを実演した。
機体には熱を感知する赤外線カメラを搭載。四足歩行であるクマなどの動物に比べ、二足歩行の人は小さく映る。用意されたモニターの映像を確認すると、黒く映る樹海の中を、白い点が動いている様子が捉えられていた。
パトロールのために用意されたのは巡回専用のドローン2機と、スピーカーがついた1機の計3機。巡回専用機が交代しながら、あらかじめ設定されたルートを自動で巡回する。
人影を見つけると、スピーカーがついた機体が現場へ急行し、自殺を思いとどまるよう声がけする。同時に警備員も発見場所へ駆けつけるといい、必要に応じて富士吉田署にも通報する。具体的な飛行時間などは、知られると効果がなくなるため公表していない。
山梨県によると、昨年、県内の人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺死亡率は26・8と、2年連続で全国最悪となった。
これまで富士河口湖町と鳴沢村が日中に見回りを行っていた。ただ、人の目では警戒に限界があり、ドローンの導入により、広範囲を正確に監視することが期待される。
県健康増進課の知見圭子課長は「人の力では夜間、発見するのは難しく、ドローンのメリットは大きい。訪れた人をしっかりと保護していきたい」と話している。
「自殺の名所」清張作品から…知事「真の姿広めたい」

青木ヶ原樹海に「自殺の名所」というイメージがついたきっかけとされるのが、松本清張の小説「波の塔」だ。
若い検事と人妻の恋愛を描いた作品で、1959年から約1年間にわたり、週刊誌に掲載された。
終盤、ヒロインが訪れる富士山の麓の樹海は「人跡未踏の原始密林である。この中に迷いこむと、死体も発見できない」と説明されている。物語は樹海へ入っていったヒロインが自殺したことを示唆して、幕を閉じる。
実際の青木ヶ原樹海には遊歩道や洞窟があり、観光地として楽しめる。
山梨県の長崎知事は「波の塔」について、「(ネガティブなイメージがついたという)そういう意味では、大変迷惑な作品」とした上で、「青木ヶ原樹海の真の姿のイメージを広げることで、自殺の防止に役立てたい」としている。

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