東京証券取引所の社員によるインサイダー取引疑惑で、企業の株式公開買い付け(TOB)に関する未公表情報を基に社員から株取引を勧められた親族が、実際に複数回の取引を行い、少なくとも数十万円の利益を得ていたことが関係者への取材でわかった。証券取引等監視委員会は東京地検特捜部への告発を視野に、社員と親族のやりとりや親族の取引状況などを調べている。
関係者によると、社員は20歳代男性で、東証の上場部開示業務室に所属。同室は、経営に影響を与える出来事が起きた企業が投資家らに情報提供する「適時開示」などを担当しており、社員は業務を通じて得たTOBに関する未公表情報を基に、親族に株取引を勧めた疑いがある。TOBが公表されると対象企業の株価は変動することが多く、親族は社員の勧めに応じて株取引を繰り返し、数十万円以上の利益を得たという。
金商法は、未公表の重要事実を基に自身で株取引をする行為のほか、他人に重要事実を伝える「情報伝達」、重要事実を伝えずに株売買を勧める「取引推奨」をインサイダー取引として規制している。監視委は9月に社員や親族の関係先を強制調査。東証は未公表情報を扱う業務から社員を外した。
東証を傘下に持つ日本取引所グループは23日、「調査に全面的に協力する。関係者に多大なご迷惑とご心配をおかけし、深くおわびする」とのコメントを発表した。
今月19日には、金融庁に出向中の男性裁判官が、TOBなどの企業情報を基にインサイダー取引を行った疑いで監視委から強制調査を受けていたことが判明。青木一彦官房副長官は23日の記者会見で、「市場を監督する立場の金融庁と東証の職員が立て続けに監視委の調査を受けるに至ったことは大変遺憾」とし、「調査結果を踏まえ、再発防止策を徹底するなど、金融市場の信用確保に尽力していく必要がある」と述べた。
◆株式公開買い付け(TOB)=企業を買収する際などに、株式の買い付け価格や期間などの条件を公表し、希望する株主から市場外で株を買い集める制度。買い付け価格は市場価格より高く設定されることが多く、公表すると対象企業の株価が上がる傾向にある。