訪日客(インバウンド)らの度重なるマナー違反で市民生活に支障が出ているとして、北海道有数の観光地である小樽市は28日から、緊急の予算措置で対策に乗り出す。市内で写真撮影をする観光客が車道を塞ぐような事例が相次ぐほか、23日には線路内に立ち入った中国人観光客が列車にはねられて死亡する事故も起きている。
小樽市観光振興室によると、JR小樽駅や小樽三角市場近くにある「船見坂」は、下り道の先に小樽港や船を望める急坂で、写真撮影や散歩を楽しむ訪日客が後を絶たない。ただし、観光に夢中になり、片側1車線の狭い市道に立ちはだかり、車両の通行を妨げるといった事例が多数報告されているという。
市の担当者は「住宅が並び、交通量も多い。路上で立ち止まったり、数人で横並びになって歩いて車が通れなくなったりと、住民への影響は大きい。今年度は特にひどい」と頭を抱える。
トラブル回避に向けて対応を協議してきた市と道警小樽署は昨年、「次の行為は犯罪」として、道路上で写真撮影する等車の通行を妨げる▽線路で立ち止まる▽他人の土地に無断で入る▽道路や他人の土地にゴミを捨てる――などを中国語や韓国語、英語で列挙した注意喚起のポスターを作製。地域住民に配布し、インターネット上でも公開して自由に使用できるようにしている。
さらに市は28日から当面の間、船見坂の3カ所に午前10時~午後4時、迷惑行為を注意し、現場の混乱を収める警備員3人を配置することにした。経費453万円は市の予備費を充てる。イベント以外で路上に警備員を配置するのは異例という。船見坂沿いに住む住人の男性は「勝手に私有地に入られたり、留守を見計らって無断駐車されたりする。ごみを捨てられ、物を壊されたこともある。本当に困っている。今回の対応は助かる」と話した。
小樽を訪れる訪日客は新型コロナウイルス禍前を上回っている。2024年度上期の外国人宿泊客数は19年度の約9万2000人より多い約9万8000人で、前年同期比で1万人以上増えた。隣接の札幌市を宿泊地とする訪日客も多く、実際の観光客はさらに増えているとみられる。
市内は船見坂だけでなく、映画の撮影地などとなり、SNS(ネット交流サービス)で話題となっている「名所」があり、住民とのあつれきが生じている。小樽署では通報が寄せられる度に現場に駆けつけて対応しているが、悲惨な事故に発展する事例も起きた。
小樽市のJR朝里駅近くで23日午前11時半ごろ、踏切から線路内に立ち入った中国人観光客の女性(61)が快速列車にはねられ、死亡した。小樽署によると、同行の夫は「写真を撮るために線路内に入った」との説明をしており、列車に気づかなかったとみられる。
朝里駅は映画の撮影地になったこともあり、特に冬季は訪日客の利用が増える。JR北海道は16年から警備員1人を配置して踏切や線路への立ち入りや立ち止まりを注意している。新型コロナ禍で一時取りやめたが、訪日客の増加を受けて24年1月から再開した。【谷口拓未、後藤佳怜】