埼玉県八潮市で下水道管が破損し、県道交差点が大規模に陥没した事故は28日で発生から1年となるが、現場周辺の住民は今も、下水からの悪臭や復旧工事の騒音に苦しんでいる。下水道管の複線化など工事完了まで最短でも5年以上かかるとされ、日常を取り戻すにはまだ時間がかかる。(さいたま支局 大須賀軒一、宮川徹也)
工事完了まで5年以上
「事故があったあの日から全てが変わった」。工事現場を囲む防音壁の隣で喫茶店を営む女性(81)はため息をつく。自宅も兼ねており、事故後は約3週間の避難生活を送り、店は閉めたままだ。
今は工事に伴う騒音と振動、悪臭に悩まされている。硫化水素の影響からか、店に置いていたポットなどの銅製品は変色し、エアコンは接続部の金属が腐食して壊れた。女性は「お客さんが戻ってきてくれるのか不安でたまらない」と話す。
地元有志が昨秋、住民らに実施したアンケートでは、回答した112世帯のうち86%が事故による「ストレス・精神的負担」があると回答。「頻繁にせきが出る」「下水臭による頭痛」を訴える声も寄せられた。
県は対策を進めている。昨夏から現場の半径200メートルの世帯・事業所を中心に金銭的な補償(1世帯5万円以上など)を行い、金属の腐食も、年末に補償対象に追加。健康不安の声を聞く相談会も開いてきた。
ただ、被害の長期化が懸念され、アンケートを行った主婦木下史江さん(56)は昨年12月、住民による被害者の会を組織。被害実態の自主調査や国・県への要望活動を模索しており、「住民の声を行政につなぐ架け橋となりたい」と話す。
陥没事故は昨年1月28日午前9時50分頃に発生。交差点に突然開いた穴にトラックが転落した。男性運転手が下水道管内に取り残され、県は上流域の12市町に下水道の利用自粛を半月にわたって要請。下水を迂回させるバイパス管を取り付けるなどし、運転手の遺体は事故から約3か月後に搬出された。
県の第三者委員会は昨年9月、硫化水素がコンクリートを腐食させたとする中間報告をまとめた。硫化水素は下水に含まれる有機物が分解される過程で発生したとみられ、下水道管の劣化でつなぎ目などに隙間ができて、土砂が流れ込んだとしている。
県は工事や補償に278億円超を投入し、現場では、新たな下水道管の設置が完了。4月には現場の通行が暫定2車線で再開される予定だ。下水道管の複線化も進める方針で、完成は着工の5~7年後だという。
下水管調査 無人化必要
陥没事故は、下水道が抱えるリスクの大きさを顕在化させた。現場の下水道管は直径4.75メートルと大型で、毎秒4トンの下水が流れ込み、安否不明になったトラック運転手の救出や復旧工事は難航した。
事態を重く見た国土交通省は昨年3月、設置後30年以上の大型下水道管約5000キロを対象にした「全国特別重点調査」を実施するよう自治体に要請。昨年9月の途中経過では、約300キロが5年以内の緊急対策が必要と判定された。北田健夫・埼玉県下水道事業管理者は今月、報道各社の取材に「上水道と違い、下水道は汚水を止められないため調査や更新が難しい。ドローンの活用など調査や更新技術の高度化、無人化が必要だ」と訴えた。