第二電電(現KDDI)の創業に携わった実業家の千本倖生氏(83)が贈与した法人株を巡り、千本氏の子ども4人が、国税当局から2024年に計約7億5000万円の申告漏れを指摘されたことが関係者の話でわかった。いずれも贈与税を算出した際、法人株の価値を決める所有不動産の評価額が低すぎるとして「著しく不適当」と判断されたという。(建石剛)
関係者によると、4人は千本氏の長女、長男、次男、次女。いずれも処分を不服として国税不服審判所に審査請求したが、25年4月に棄却された。
千本氏は13~17年、東京都内に法人3社を設立。3社は銀行から融資を受けるなどし、新宿区、港区、中央区のマンションを1棟ずつ、計3棟を総額約40億円で購入した。その後の17~20年、千本氏は3社の株を4人に贈与した。
贈与の際、4人は3社の主要資産であるマンション3棟について、路線価や固定資産税評価額をもとに計約8億円と評価した。銀行からの借入金を差し引き、贈与税をいずれも0円と算出したという。
相続税や贈与税に関する国税庁の基本通達では、土地や建物は原則、公示地価の8割が目安の路線価などに基づいて価格を評価するとしている。ただ、取得から3年経過する前に贈与する場合は、取得価格で評価するとの定めがある。
今回の3棟はいずれも評価額が低くなりやすい3年経過後まもない時期に法人株が贈与されていたことなどから、国税当局は評価額を「著しく不適当」と判断。その場合は国税当局が再評価するという同通達の例外規定を適用し、周辺相場などから3棟で計約34億円と算出し直したという。
無申告加算税などを含む追徴税額(更正処分)は計約1億7800万円とみられる。読売新聞は5月以降、千本氏と4人に文書などで複数回取材を申し込んだが、回答はなかった。
千本氏は日本電信電話公社(現NTT)出身で、1984年に稲盛和夫氏らとともに第二電電を創業。通信会社「イー・アクセス」や「イー・モバイル」の会長なども歴任した。
「例外規定」適用、当局の裁量大きく
国税庁によると、基本通達の例外規定を適用して相続税や贈与税を追徴課税したケースは2024年度までの10年間で27件あった。13億円超で購入したマンションなどを3億円余と評価して申告した事例では、最高裁が22年、国税当局による12億7300万円の再評価を適法と認めた。
ただ、例外規定の適用は国税当局の裁量によるところが大きい。ルールを明確にするため、26年度の税制改正大綱では、賃貸用不動産を購入から5年以内に相続・贈与する場合、原則として市場価格で評価することが盛り込まれた。非上場企業株の相続・贈与についても国税庁が今春に有識者会議を設置し、評価のあり方を議論している。
資産課税に詳しい元熊本国税局長の渡辺定義税理士は「時価とかけ離れた資産評価による税申告に対しては例外規定の適用もやむを得ない」としつつ、「同様の事案が起きないよう、国税当局は通達について不断の見直しを行っていく必要がある」と指摘する。